断点 1 - 2


(1)
「進藤、たまにはボクの家で打たないか?
碁会所だとどうしても周りがうるさいし、落ち着いて検討も出来ない。
それに、キミも嫌な思いをしてるんじゃないか?本当はあそこは嫌なんじゃないか?
ボクもお客さん相手だから強く言えなくて、いつも申し訳ないと思ってるんだけど。」
そんなふうに言われたのは先週の事。
それでオレは今、塔矢の家の前にいる。
オレはいつになく緊張している。
そりゃ、塔矢んちに来るのは初めてじゃない。
けど、いつもと違うのは、多分今日はこの家には塔矢以外誰もいないって事。

もしかして塔矢も少しはオレと二人きりになりたいなんて気持ちもあるんだろうか、とか、いや、
そんな事ない、単に塔矢はオレと邪魔無しで打ちたいだけだろう、とか、そんな自分に都合の
いい考えと、それを打ち消す考えがぐるぐるして、アタマがおかしくなりそうだった。
「あーっ、どうしよう!」
思わず声を出してしまってたらしい。通り過ぎる人がオレの事を怪訝な顔で見た。
慌てて時計を見ると約束の時間をちょっと過ぎてた。
オレって馬鹿。一体、何分、この家の前でぼーっと立ってたんだろう。
えーい、こんなとこでいつまでも考えてたってしょうがない。
男は度胸だ。思い切って、呼び鈴を鳴らした。

「やあ、いらっしゃい、よく来たね。」
塔矢はにこやかに出迎えてくれた。
「今日は余計な口出しする人もいないし、二人だけだから、思いっきり打とう。」
余計な口出しって北島さんとかのことかな、と思うとちょっとおかしかった。
あのオッサン、いっつもうるせーんだもん。何かっつーと若先生、若先生って。
塔矢と打ってるのはオレだっての。
「えと、塔矢先生やおばさんは?」
「例によって中国に行ったきり。誰もいないから、遠慮する事無いよ。」
やっぱり。この家に二人っきりなんだ。そう思うとドキドキしてきた。


(2)
二人っきり。

ああ、マズイ。どうしよう。
塔矢と二人きりなのは嬉しい。けど、嬉しいだけじゃない気持ちがある。
だって、オレは塔矢を見るとヘンな気持ちになるんだ。
オレを生まれて初めて真剣にさせた塔矢の目が、あの時と同じようにオレを真剣に見てるのに
気づくと、その時一瞬、オレの心臓は止まりそうになる。
思いがけず塔矢がオレに向かって笑ってくれたりすると、オレの心臓はうるさいくらいに暴れだ
して、オレはどぎまぎしてあいつの顔を直視できなくなる。
それなのにオレはふと気が付くと塔矢の横顔や、指先に見惚れてたりする。
もっとずっと見ていたいと思ってしまう。もっと一緒にいたいと思ってしまう。
それだけじゃなくて、見てるだけじゃなくて、あいつに触ってみたくてしょうがなくなる。
塔矢のサラサラ流れる真っ直ぐな髪とか、すべすべな白いほっぺたとか、ピンク色のキレイな
唇とか…あいつに触ってみたいんだ。触ってみたくてしょうがないんだ。
それだけじゃなくて、塔矢にキスしたり、抱きしめたりしてみたいんだ。
つまりオレは塔矢が好きなんだ。

時々そんな気持ちを抑え切れなくて、気付いたら塔矢のことをじっと見てしまっていたりする。
「どうした、進藤?」
って言われて慌てて、なんでもない!って言って、目をそらしたりする。
それが最近は度々で、なんか、オレの気持ちは塔矢にはバレちゃってるんじゃないかって気も
する。もし、バレてるんだとしたら…わかってて誰もいない家にオレを呼ぶって、どういうつもり
なんだろう、ってまたバカな考えがぐるぐる回りだす。

そんなオレに気付いているのかいないのか、塔矢は碁盤を出してオレの前に置く。
「早速だけど、まず、打とうか。」
「うん。」
オレは塔矢の淹れてくれたお茶をくいっと飲んで、碁笥を引き寄せた。

「お願いします。」
そう言って頭を下げると、不思議と意識は盤面に集中して、ヘンなもやもやとか、ドキドキとかは
どこかへ消えた



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