番外 2 1 - 2


(1)
「なに? このボクに氏ねというヴァカがいると?」
 少年王アキラはマントを翻し、美しい仕種で王座から立ち上がった。
「通していいよ。ボク、逢ってみたいんだ」
 右手をスッと下ろすと、絶妙のタイミングで執事の座間が近づき、少年王が新しく設えさせた鋲付き
の鞭をそのしなやかな手に握らせた。
「これの使い勝手も試せそうだしね」
 少年王は赤い舌をひらめかせると、その鞭の鋲の部分を舌で擽る。
 いつのまにか覚えたらしい王のいやらしい舌の動きに、座間は頬を赤らめた。
 やがて引きずられて少年王の執務室に入ってきたランたんは、大きなお腹を抱え、ギラギラした、
まるで人間以外の生き物のような野生の目で少年王を睨み付けた。
「へえ…ボクと相対しても目を逸らさない人もいるんだ……」
「うるっさいよ! おがたくんおがたくんって言うんじゃないよ! あたしのアキラは『緒方さん』と
しか言わないんだよ! 原作にはなくても、あたしがそう言うから間違い無いんだよ! 吐くんだよ!」
「え……と? キミは何を言いたいのか?」
 少年王は困惑した。何をそんなに怒ってるのか、皆目見当もつかないのだ。


(2)
「サルにはサル語で話しかけないとわかんないんだよ!」
 少年王は驚きに目を見開いた。そして言葉が通じない理由も瞬時に理解する。
 ランたんは猿の妊婦さんだったのだ。
「サル語ねえ…ボクたちの言葉と発音は似てるけど、意味が違うのかな。座間、お前はサル語判るか?」
「申しわけありませんが…今までサルと出会ったことはあまりなかった故」
「…そうか。とりあえず、この妊娠してるサルをどこか連れていって。お腹に子供がいると判った以上、
鞭は駄目だろうからね」
 少年王は鞭を使ったお仕置きは大好きだったが、心根はとても純粋で優しい少年である。妊娠している
住人を馬に乗せて家まで送っていったり、ご長寿の荷物を持ったりしていることはあまりにも有名だった。
 台座から華麗に降りると、その白魚を思わせる美しい手をランたんに差し出した。
「さあ、バナナをあげるから。カーンくんみたいに立派なゴリラになってくれ」
 ところが、ランたんはその美しい手を鋭い爪で引っかき、あろうことか振り払ったのである。
「あたしは妊娠なんかしてねえよ! おえええええ吐くぅぅぅぅ」
「え? でもそのお腹は……」
「これはあたしだけの肉じゃ!」
 ランたんは妊婦ではなかった。その逞しい外見に、少年王は見事に騙されてしまったのだった。



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