差し入れ妄想 1 - 2
(1)
「アキラー、茄子とトマトのカレー上手く出来たから差し入れに
きたよ♪」
芦原は鍋を抱えて塔矢邸を訪れた。
「いらっしゃい芦原さん、どうぞ上がって下さい。芦原さんの料理
おいしいから嬉しいな」
アキラは芦原から鍋を受け取り台所へ向かう。芦原もアキラの後に
続いた。鍋に火をかけると、辺りにカレーの匂いが漂い始める。
「うわあ〜、イイ匂いだなあ。芦原さん、ありがとう」
「先生と奥様、まだ海外だろ? お前って冷蔵庫にある物でしかメシを
作らないからなあ。最近、何食ったんだアキラ?」
「えっと・・・アジの開きに、一昨日作った煮物かなあ」
「ホント食えればいいって感じの食生活だな」と、なかば呆れ顔で芦原は
言う。その時、玄関で呼び鈴が鳴った。
「はーい、どなたですか?」
玄関へアキラが足を運ぶと聞きなれた声が耳に入った。
「アキラくん、私よ」
「市河さんですか?」
鍵を開けると、そこには晴美が立っていて手にはお重箱を持っている。
「酢豚と中華サラダを作ってきたの。良かったら食べて」
「あれー、市河さんじゃないの。オレもアキラにカレーを作って
きたんだよ」
いつの間にか芦原は玄関に来ていて口をはさむ。
またその時、玄関にもう1人の来訪者が足を踏み入れた。
「ほう、これはまた賑やかだな」
「あっ、緒方さん!」
(2)
芦原がいち早く緒方に気付いた。緒方は老舗の寿司屋の包みを抱えている。
「考えていることは皆同じだな」と、緒方は苦笑する。
「緒方さん、いらっしゃい。じゃあ みんな居間に上がって下さい」
ガヤガヤと塔矢邸は いきなり騒がしくなった。
芦原・晴美・緒方の3人が居間のテーブルに座るとアキラはお茶を入れに
再び台所に行く。
居間にいる3人は無言でお互いの顔を見合って、一斉に片手を上げた。
3人の上げた手にはスーパーのビニール袋がぶら下がっている。
「芦原と市河さんは何を持ってきたんだ?」と、緒方は訪ねた。
「私はすぐ食べられるコロッケやエビフライ。それにリンゴとバナナ」
「オレは缶詰と牛乳です。緒方さんは何ですか?」
「チーズにハム。それにジュースだ」
スーパーの袋の中から缶を一個取り出し、それを改めて見た緒方は
一瞬目を丸くした。
「オレとしたことが・・・・・・・間違えてしまったらしい」
「どうしたんですか、緒方先生?」
晴美が緒方の手にしている缶を見てプッと噴き出した。
「緒方先生、それジュースじゃなくてチューハイですよ」
「最近の酒缶のデザインはジュースと変わらなくて紛らわしいな」
ボソッと緒方が呟き首を傾げる横で、芦原は必死に声を押し殺し、
肩を震わせて顔を真っ赤にしている。
そこへお茶を運んできたアキラは3人の様子を不思議そうに見ていた。
こうやってアキラたんは皆に甘やかされ、口が肥えていきましたとさ。
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