バレンタイン小ネタ2 1 - 2
(1)
久しぶりに塔矢邸で塔矢門下の研究会が行われた。
大きな和室の部屋に多くの門下生がひしめき、元名人も顔を出す。
「失礼します。皆さん よろしかったら お茶とお菓子をどうぞ」
アキラの母親が手作りのチョコレートケーキやクッキーを部屋に運ぶ。
「うわあ、コレ奥様の手作りなんですか? すごいなあ!
さっそく頂きます〜」
芦原が一番乗りで お菓子に手を出す。
塔矢門下の棋士達がお茶で一服している中、緒方が複雑な表情をしている。
そして、大きな紙袋を手に携えて台所にいるアキラの母親に声を掛けた。
「お忙しいところすみません。奥様、お願いしたいことが
あるのですが・・・」
「アラ、なんでしょうか?」
「恐縮ですがコレの処分、お願いできますか」
緒方の手に持つ紙袋には、沢山のチョコレートが入っている。
「まあまあ、緒方さん女性の方にモテますのね。」
緒方は碁聖のタイトルホルダーになってから周りの様子が一変し、熱烈に
アタックする女性達が後を絶たない。
「いや、こんなのは ただのミーハーで一時的なものですよ」
その時、台所に湯のみや皿をさげにきたアキラが顔を出す。
「緒方さん、随分沢山チョコレート頂いたんですね」
「そういうキミも、かなり貰ったんだろ?」
「エエ、まあ・・・」
「それにしても こんなに沢山のチョコレート、どうしようかしら?」
「大丈夫ですよ 奥様。なにせウチの門下生には芦原がいますから」
「うん そうだよ。芦原さんなら これくらいのチョコレートは平気で
食べちゃうよ」
(2)
台所を後にするアキラと緒方は、廊下で お互いに顔を見合わせた。
「・・・本当に この時期は芦原がいてくれて助かるよ。
捨てる訳にはいかないしな」
「芦原さんには感謝しなくちゃですね」
「こんな時にしか役に立たないのも問題だがな」
「・・・・・それは言い過ぎですよ、緒方さん」
アキラは言いながら苦笑いする。
研究会が行われている部屋に2人が戻ると、そこには上機嫌の芦原がいる。
「アキラ、奥様に お菓子ご馳走様って伝えておいてくれるか?
俺、甘いものには目がないから嬉しくてタマラナイよっ!!」
そのセリフを聞いてアキラは隣にいる緒方にしか聞こえないぐらいの
小さな声で言う。
「芦原さんって、甘いものさえあれば何処でも生きていけそうですね・・・」
「なっ、俺の言った事は言い過ぎじゃないだろ?」
「ハイ・・・・・・」
その頃、居間ではアキラの母親がお菓子の本を開いていた。
「さあ、次の研究会は来週ね。今度は なんのお菓子を作ろうかしら」
ありあまるチョコレートの山を目の前に、すでに次の新たな策を巡らせて
いた。
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