夜桜と月とアキラたん 1 - 2
(1)
ね、知ってる?桜の木の下には、死体が埋まってるんだって。
人間の生き血を養分にして咲くから、薄いピンク色の花になるんだよ…。
今ちょうど桜がきれいだからとアキラに誘われ、ヒカルは近所の公園に来ていた。
夜、少し遅い時間だったためか、花見客もなく静かだった。街灯は無かったが、月が出
ていたからか、不思議と明るかった。
「うわー、結構酒臭いなぁ」
「お花見のシーズンだからね、仕方ないよ」
近くのコンビニで買った飲物を片手に、大きな桜の木の下にあるベンチに座り、二人で
桜を見上げた。桜は静かに風に花弁を揺らし、枝葉に小さなうねりを作っていた。
「ホント、綺麗だね・・・」
そうヒカルがつぶやいた、その時だった。アキラは静かに立ち上がり、木の幹を撫で、
花を見上げながら、独り言のようにつぶやいた。
ぶわ、と風に煽られ散った花びらが二人めがけて降ってきた。
蒼白い月に照らされたアキラの白い肌はなおいっそう白く、つややかな漆黒の髪とコン
トラストを成している。月を背景に花を纏うかの様なアキラの姿は、まるで桜の精のよ
うだとヒカルは思った。
もしかしたら、彼はアキラではなくて、この桜の精なのかもしれない。あやかしでアキ
ラの姿を借り、自分をここに連れてきて、今ここで、この木の新しい養分として、この
桜の精に捕らわれ埋められてしまうのかもしれない。
不思議と、怖さはなかった。むしろアキラに取り込まれるなら―――
(2)
「進藤、聞いてる?」
アキラの声にはっと意識が戻った。ヒカルの眼前にアキラの顔があった。
「あ、ごめん・・・なに?」
「お茶飲みかけのままでぼーっとして、何考えてた」
「塔矢って綺麗だな、と思って。なんか桜の精に見えたよ」
「え?」
「で、今ここで塔矢に埋められちゃうのかなって・・・でもそれもいいかなって、思っ
たよ」
「やだなぁ。何でそんな事・・・」
アキラは困り顔で、ちょっと肌寒いしもう帰ろうか、とヒカルを促した。
蒼い月は、そんな二人の一部始終を音もなく見守っていた。
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