四十八手・その後 1 - 2


(1)
 あの日、塔矢に好き勝手されて、もちろん俺は怒ってた。
 だって、恥ずかしかったし、痛かったし、なかなか手を離して貰えな
くて、死ぬかと思ったんだぞ。
 ぐったりした俺を塔矢はどっちがやられたんだか分からないくらい真っ
青になりながら手当てをして、その後、俺が寝ころがった布団の前に、
力なくうなだれてた。
「本当にすまない。謝って許して貰えることじゃないけど」
 そりゃそうだよな。俺が女の子だったら、一生責任を取れって言われ
ても文句言えないんだぞ。でもさ、
「ずっと前から君のことが好きだったんだ。だから、ついあんなこと」
「僕の下で泣いてる君が、すごく可愛くて、歯止めが効かなかった」
「君が嫌がるなら、もう二度とあんなことはしないから」
 必死に謝る塔矢を見て、あっ、こいつちょっと可愛いかもなんて思っ
ちまった。こんなに焦りまくってる塔矢って初めて見たかも。
 別に塔矢のことは嫌いじゃないし、いや、どっちかっていうと好きな
方になるのかな。それに、けっこう、えーと、気持ち良かったし。もう
saiのことは蒸し返さないっていう条件付きで許してやることにした。
 あの後、帰って来た塔矢先生とお母さんに、俺が遊びに来て一局打っ
てるうちに具合が悪くなったなんて、平気な顔して話してたのにはちょ
いむかついたけど、退院のお祝いだからって、俺が見たこともないよう
な特上の寿司を五畳半、じゃなくてご相伴?まぁ、どっちでもいいや。
とにかく奢って貰えたんだし、大目に見てやろうってもんだ。


(2)
『それにしてもびっくりしましたね。あの塔矢がヒカルのことを好きだ
なんて・・・』
『だよなー。俺もびっくりだよ。佐為だって、千年も生きてて、こんな
ことは初めてだろ?』
『今ではどうかは知りませんが、平安の世では、男同士で睦み合うこと
は珍しくはありませんでしたよ。もっとも、「怪しの恋」と言って、公
にするものでもありませんでしたが』
『へぇ、千年前の方が進んでるんだな』
『それよりいいのですか、ヒカル?今日は、塔矢の家に遊びに行くので
しょう?また、あんなことがあったら・・・』
『大丈夫だって、もう無理にしないって、塔矢も約束したじゃん』
『無理にはというのが、何だか気にかかりますねぇ』
 そうは言ってもさ。この先、塔矢とはずっと顔を合わせるんだし、避
けててもどうしようもないもんな。
『それにさ、塔矢先生がいたら、またsaiと打って貰える約束ができ
るかも知れないじゃないか』
 塔矢先生の名前を出すと、急に佐為の表情が曇る。前は、あの者と打
ちたい!打ちたい!って、大騒ぎだったのに、どうしちまったんだろう。
「こんにちわ!」
「いらっしゃい、早かったね」
 玄関まで迎えに来てくれた塔矢は、すげー機嫌が良さそうだ。
「お邪魔しますー」
 塔矢の家に来るのはこれで二回めだけど、何だか緊張するんだよな。
「今日は父も母もいないから、そんなに硬くならなくてもいいよ」
「えー?塔矢先生、いないの?」



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