平安幻想異聞録-異聞- 1 - 2
(1)
「恨むなら、佐為の君を恨むがよろしい」
男達に押さえつけられ、狩衣をやぶられて、ヒカルは歯噛みした。
事の起こりは、日も落ちて、あたりも暗くなりはじめる頃。
一日の仕事を終えたその帰り道。
近衛ヒカルが竹林の前を通りすがった時だった。
突然、道の脇から飛びだした男達に囲まれた。
しかし、これが普通の野党であったなら、話は簡単だったのだ。
ヒカルとて年若いとはいえ、都を守る検非違使の役職を務めあげ、
ましてや、かの佐為の君の護衛にまで抜擢された身――剣の腕には覚えがある。
一太刀に切って捨てていたはずだ。
実際、ヒカルは複数の影が周りを取り囲んだ瞬間に太刀を抜き放ち、
流れるような一動作で、すぐ左側に立つ男をけさ懸けに切ろうとしていた。
その腕が止まったのは、その男達の後ろから現れた2人の人物に気をとられたからだ。
「座間様…、菅原様…」
そして、その一瞬の躊躇が命取りになった。
(2)
あっという間に、引きずり倒され、竹やぶに引き込まれた。
体の大きさがヒカルの3倍はありそうな大男が、上に馬乗りになり、
素手で力に任せて、ヒカルの青い狩衣を引き裂いた。
「やめ…何すんだよっっ!」
渾身の力をこめて暴れるが、他の3人の男達がそれぞれに
両手と、右足、左足を押さえ込んでいるので身動きひとつできない。
あっと言う間もなく、ヒカルの上の大男は引き裂いた狩衣をヒモのように利用して
両腕をひとまとめにしてくくりあげ、ヒカルの頭の上方の竹に縛りつけると、
さらに両足を大きく開脚した状態のまま、右足首と左足首をそれぞれ、
右下方、左下方の竹にキツクくくりつけてしまった。
「良い格好だな、近衛ヒカル」
ヒカルが完全に身動き出来なくなったのを見届けて、黙って身を離した夜盗風の男達の
その向こうからヒカルを見下ろしていたのはまぎれもなく、座間長房と菅原顕忠。
その姿を認めたとたん、ヒカルの頭からは敬語という概念はふっとんだ。
「座間、菅原、てめぇら、何すんだよ!!」
「恨むなら、佐為の君を恨むがよろしい」
菅原は、その独特のヤモリにも似た笑いを頬に浮かべた。
「さきの妖怪退治の1件で、我ら座間一派は、藤原一派によって、
名にこれ以上ないほどの泥を塗られた。ここは藤原行洋殿や藤原佐為殿に
直接意趣返しをしたいところだが、もはや、かの1件は都中の者の知るところ。
あの事件のすぐ後に、かの者たちの身に何かあれば、彼らに恨みを持つ我々に
まず疑いがかかるは必須。
さて、このまま、腹の煮えくり返る思いに耐えねばならぬのかとおもいきや、
いやはやどうして、かの事件の中枢にかかわりながら、
いまだ世間にその存在があまり知られておらぬ人間もおるではないか、なぁ、近衛殿」
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