邂逅(平安異聞録) 1 - 2


(1)
(今日は内裏の警護か…)
光は一つ欠伸をして、内裏へ続く大路をゆっくりと歩く。
妖怪退治の一件以来、内裏への訪問をするのは久しぶりだった。
佐為はあの事件でその囲碁の腕を評価され、今は帝の囲碁指南役として仕え、
誰もが羨む地位に納まっている。貴族として大きく出世したのである。
だが光は警護の任を解かれ、佐為には殆ど会えなくなってしまった。
帝の囲碁指南役貴族と検非違使、その身分には大きな隔たりがあった。
(もしかしたら佐為に会えるかもしれない)
そう思いついて、光の心は踊った。佐為の笑顔を見て、色々な話がしたかった。
光の姿を見とめたら驚くかもしれないが、きっと優しく迎えてくれるだろう。
(佐為、元気にしてるかな?好きな囲碁が打てるんだ、元気に決まってるよな)
自然と顔がにやけてくるのを必死に抑えながら、内裏へと続く道を急ぐ。
退屈な警護の役は一転して楽しみになってきた。佐為と会うためならば。

(佐為…何処にいるんだろう?)
中庭を見渡せる廊下で、光は始終落ちつかない様子で辺りを見まわした。
美しい女房やきらびやかな貴族への挨拶もそこそこに、光は必死で佐為を探した。
しかし、どこにも佐為の姿はない。もうすぐ警護の交代の時間になる…。
(…もしかしたら、今日は参内してないのかもしれない)
会える確信はなかった、単に光が期待していただけだ。
肩を落として帰ろうとする光の耳に、女房達の笑い声に混じって声が聞こえてきた。


(2)
会いたいと願っていた、探し人の声。
「佐為!?」
その部屋に入ると、そこには大勢の女房や貴族の子供に囲まれて談笑する
光の目的の人物の姿があった。光の声に気付いた彼はゆっくりと振り向いて笑いかける。
「おや、光ではありませんか。久しぶりですね」
「あ……うん、久しぶり…」
二の句が継げない光に構わず、周りの女房達が騒ぎ始めた。
「ねえ佐為様、この検非違使とお知り合いなの?」
「佐為様を呼び捨てにするなんて、失礼なんじゃない?」
「それに急に入ってくるなんて…」
「いいんです、彼は私の友人なんですよ。そう怒らないでやってください」
「まあ…佐為様がそう言うなら…ねえ?」
「そうね、佐為様ってとってもお優しいのね」
「ありがとうございます」
女房達と会話する佐為を呆然と眺めて、光は置いて行かれたような寂しさに囚われた。
ここではまるで自分がのけ者のようだ。佐為がとても遠くに感じられる。
「ねえ佐為っ!そんな事より勝負の続きは?囲碁やろうって言ったの佐為でしょ!」
その挑戦的な子供の声。声の主は光と同じか光よりも歳下に見えた。その姿から
どうやら貴族か帝の子息らしい。みづらに結った髪が幼さを際立たせている。
「はやくっ!もうボク打ち終わったんだからね」
「はいはい…おや、これは新手ですね。ふふ、中々面白いですよ」
「そんなのよりも、これが終わったら蹴鞠する約束、ちゃんと守ってよね!」
子供の無邪気で我侭な言い草に佐為も女房達もどっと笑う。
光はその場からそっと黙って立ち去った。何故だか分からないが
心臓がどきどきして、目頭が熱くなってきた。泣きたくなくて空を見上げる振りをして、
涙がこぼれないように歯を食いしばった。



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