金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 1 - 2


(1)
 世の中には似た人間が三人いると言われているが――――

 アキラは駅のプラットホームである人物を見た瞬間、そこから視線が外せなくなってしまった。
 その人はアキラの知人によく似ていた。いや、似ていたなんてものではなかった。繊細な
横顔。生き生きと生気に満ちあふれた瞳。小柄ながらも均整のとれた伸びやかな肢体。細い
首筋から華奢な肩へとつづく曲線が綺麗だった。

 突然、“彼女”が、こちらを振り返る。誰か知り合いでも見つけたのか、ニコリと笑うと、
手を振りながら近づいてくる。少しずつ、朧気だった輪郭が鮮明に浮かび上がってくる。
――――――近くで見ると本当によく似ている。
 アキラは“彼女”が自分の側を通り過ぎるその一瞬を待った。その時には、もっとよく顔を見ることが
出来るだろう。 

 「塔矢!さっきから呼んでるのに、なんで無視すんだよ!」
“彼女”は、自分の前に立ち止まるなり、アキラに抗議した。
 そう言われても、まだ、アキラは自分に話しかけられているとは思っていなかった。
「なんだよ!?立ったまま寝てんのか?」
“彼女”が、アキラの目の前にヒラヒラと手をかざした。そうして漸く“彼女”が、自分に
対して話しかけているのだと理解した。


(2)
 アキラは改めて、目の前の美少女を見つめ直した。



「…………………………………もしかして…………進藤………?」
驚愕に跳ねる心臓を気力で押さえつけ、出来るだけ静かに訊ねた。
「もしかしなくてもオレだ!」
美少女は仁王立ちに腕組みをし、ふんぞり返って答えた。

 「……………………キミ…………なんて格好しているんだ………」
この場合、ヒカルだとわからなかったからと言って、責められる筋合いはないと思う。何せ、
ヒカルは普段とはまったく違う姿をしていたのだから…………。
「…………どうして、セーラー服なんか着ているんだ!?」
今日の彼は、紺のセーラーカラーに白の上着、カラーと同色のミニのプリーツスカートに、
膝丈までのニーソックスという出で立ちだ。
 声をかけられるその瞬間まで、よく似た他人だとしか思っていなかった。

 「ああ、コレ?」
ヒカルはセーラー服のスカートを少し摘んで、持ち上げた。ただでさえ、短いスカートなのに、
今にも下着が見えそうだ。
 アキラは、その部分を凝視している自分に気が付いて、慌てて視線を外す。が、すぐに、
ヒカルの可憐と言ってもいいセーラー服姿が気になって、アキラは躊躇いながらも、そっと視線を戻した。

 「オレ、結構、イケてると思わネエ?」
そんなアキラにまるで気付いていないのか、ヒカルは例のお日様のような笑顔を自分に
投げると、そのままくるりとまわって見せた。ヒラヒラ軽いスカートがふわりと風に舞う。
 ヒカルの白い太腿が露わになる。その白さが、網膜を通過せずに、直接脳を刺激する……
そんな錯覚を起こした。アキラは目のやり場に困って、赤くなって俯いた。



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