失着点・境界編 1 - 2
(1)
薄暗い天井を見つめているヒカルの視界に入ってきたのは一匹のクモだった。
電気を消し,厚いカーテンで外からの光を最大限に遮ったアキラの
アパートの部屋の中で、そんなものが見えるはずがなかった。
カーテンを替えたのはヒカルが望んだからだった。
何も見えない闇の中で行なわれた行為はいつでもなかった事にできるような、
そんな錯覚でも持っていたのかもしれない。
真新しい淡い水色のカーテンの代わりに、アキラは遮光性の強い素材の黒い
色のものを見つけてきた。
でも実際には暗さに慣れた目は、部屋の片隅の携帯電話の充電のランプ程度の
光量でいろんなものを浮き上がらせ捕らえさせていた。
ゆっくりと天井をどこへ行くともなく這い回るクモの動きのように
ベッドに仰向けに横たわったヒカルの下腹部でアキラの舌が動いている。
お互いまだ服を着たままで、ヒカルの薄手のパーカーが少したくし上げられ
ジーンズのジッパーを下げただけ、アキラはスーツの上着すら脱いでいない。
手狭な玄関には乱暴に脱ぎ捨てられた革靴とスニーカーがあった。
熱い吐息を従えた柔らかな肉片の感触は、ヒカルのもっとも敏感な先端部分に
近付いては遠のき、ふいに尿道口に潜り込もうとし、また根元の方へと
引き下がっていく。まだ完全に剥けきっていない包皮が押し下げられ、今まで
あまり外気に触れていなかった箇所に慎重に刺激を与えられ続けていた。
「う…うん、んっ…ふうっ」
快感が足早に階段を登り始め、天井を見ていたヒカルの瞼が閉じられる。
ヒカルの腰がわずかに仰け反りかけたのを合図にしたように
アキラは硬直しきったヒカル自身全体を口の中に収めて激しく吸いたてた。
(2)
「はあっ…あっ…!」
アキラの口の内に放出して、ヒカルは切なく体をよじらせる。
アキラはヒカルを離そうとせず硬度を落とした柔らかな先端を舌で愛撫
し続ける。
「だから…、ダメだってば…!塔矢!…しちゃうから…!」
到達の後、尿道を刺激され続けると激しく尿意が引き起こされる。
まさかアキラもさすがにそんなアクシデントを期待してはいないだろうが、
ヒカルを困らせて楽しんでいるのは明白だった。
そんなアフターサービスが機会毎に時間延長されていた。
「…塔矢!!」
かなり切羽詰まってヒカルの声に怒りが混じるとようやくストップする。
そして機嫌を取り直してもらおうとするように顔をすり寄せてきて、
ヒカルの舌を吸いにくる。
ヒカルが放ったモノの味を分けるようにだ液を流し込んで来る。
味が無いような、苦いような、どちらにしてもあまり良い気持ちはしない。
そういうヒカルの表情を、アキラはまた楽しんでいる。
初めてこの部屋で塔矢と結ばれてから数カ月が経つ。
あのあといろいろあったが、今もこうしてこの部屋でアキラと会っている。
今日も久しぶりに碁会所で手合わせをし、「検討会は部屋でやろう」と
誘われるままについてきて、玄関に入るなりベッドに押し倒されたのだ。
アキラの甘さに混じる「いじめ」の他に、一つ、ヒカルには大きく不満に
思っている事があった。
ヒカルはまだ、塔矢の中に入った事がなかった。
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