二人の未来 1 - 3


(1)
若獅子戦が終わって、帰り道、岡と庄司は今日の進藤ヒカルと塔矢アキラの対局について語り合っていた。
「まさか、進藤があんな手を打ってくるとは思わなかったよな〜」
「さすがの塔矢アキラもかなり追い詰められてたっていうか」
どっちが勝ってもおかしくなかった。
まるでタイトル戦を見ているような、白熱した対局だった。
よきライバル達のぶつかり合う闘志に、ギャラリーはただただ圧倒されるばかりで。 
「……いつかオレ達もあんな風になれたらいいな」
「ああ、ボクもそう思うよ」
――興奮冷めやらず、お腹も空いていたので、近くにあったハンバーガーショップに入り、そこでも延々と語り合い、
気がつけば、すっかり日も暮れ、外は暗くなっていた。
「いっけね、母さんに怒られちまう」と庄司。
「ホントだ。もうこんな時間。遅くなっちゃったね」と岡。


(2)
店を出て、「駅までの近道だ、こっちの通りを抜けようぜ」と庄司が裏通りへと入っていく。
岡は落ち着かない様子で、辺りを見回しながら、そわそわとしている。
「何か、この辺ってアレだよな…」
うさんくさげなスナックや、ナニを売っているのか分からない怪しげな店、ラブホテルなどが建ち並んでいる。
こんな時間に子供達が通るような場所ではないのだ。
「ここを抜けるとすぐなんだから、早く行こうぜ」
庄司と岡は足早に歩いていたが、前を進んでいた庄司がいきなり立ち止まった。
「わっ」
岡が庄司にぶつかりそうになって、声をあげた。
「な、なんだよ。急に止まって…」
「しっ。おい、あれ見ろよ」
庄司の見ているほうに、視線を向ける岡。
彼らが見ているものは――つい数時間前まで対局していた、話題の二人−進藤ヒカルと塔矢アキラの姿だった。
少し離れたところにいる二人は何か言い争いをしているようで、腕を掴もうとした進藤の手を振り解く塔矢。
一方的に塔矢が怒っているような感じで、進藤をにらみつけている。
「あの二人…今日の対局のことでケンカしてんのかな?」
「…う、うん…?」
しかし、何となく何となくだが、それとは違うような雰囲気が。
おかしい。まるで、痴話喧嘩を見せられているような気分になってくるのだ。
庄司と岡は黙って事の成り行きを見守っていたが、いきなり進藤のほうが行動に出た。
塔矢の両肩を掴んで、自分の方へ引き寄せると――。
岡達の位置からは、進藤の背中しか見えなかった。塔矢の姿はちょうど進藤に重なり合うように隠れている。
だが、ナニかしているのは分かった。たぶん至近距離でなくては出来ないようなことを。


(3)
「………」
ようやく、二人は離れたようで、進藤の影からチラリと塔矢の横顔が見えた。
塔矢の頬には紅みがさしていて、怒りのため…とは違う気がする。
それから二人は少し言葉を交わした後、塔矢は進藤に手を引かれるようにして、目の前の建物に入っていってしまった。
視界から消えてしまった二人に茫然とする岡と庄司。
しばらくして、庄司がぽつり。
「…なぁ、あいつら、あの中に入ったよな…」
「…うん…」
「…これから二人きりで検討でもするのかな…」
――ラブホテルで?
庄司と岡は顔を見合わせると、複雑な表情を浮かべた。
そして「見なかったことにしよう」どちらからともなく提案され、事実は闇に葬られる。

無言で駅へと向かいながら、庄司と岡は、それぞれに心の中で誓いを立てた。

『いつかオレ達もあんな風になれたらいいな』
『ああ、ボクもそう思うよ』

前言撤回。


 オレたちは
        あんな風にはなりません!(たぶん)
 ボクたちは



おわり。



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