Vision 1 - 3
(1)
名古屋のホテル。真夜中、一人ベッドの上。
何だか寝付けなくて、ボクはぼうっと天井を見つめている。
(…進藤…)
彼のことばかり考えている。
なぜボクはキミを追い、なぜキミはボクを追うのか。
それはどんなに考えても答えの出ない問い。
いや、本当は、ボクの答えは出ているのかもしれない。
キミを追いつづける、この心の正体は――。
「 」
暗闇の中、彼の姿を思い浮かべる。
厳しい表情をして、盤面に石を置く、その指先…。
想像するだけで甘い痺れが走った。
「………」
今日、キミも名古屋で対局ならよかったのに。
隣りにキミがいたらいいのに。
そう思いながら、寝返りを打つと、そこに進藤の姿があった。
(2)
「――」
息をのんだ。幻影<まぼろし>だということは、すぐに分かった。
ボクの会いたいという想いが、ボクの瞳に彼の姿を映し出している。
『…塔矢…』
進藤の声がした。これもボクの願望が創り出したものなのだろう。
分かっていても、本当に傍に進藤がいるような気がして、胸が切なくなる。
ボクは静かに手を下ろしていく。自分の足の辺りに触れる。
着ているのはホテルに用意してあった浴衣。
その合わせ目の部分から手を滑り込ませると、すぐに素肌にたどりつく。
内股を指先でなぞって、少しずつ上へと上がっていく。
行き着いたのは足のわかれ目、その部分を下着の上から軽くなぞる。
わずかに勃ちあがる感触。吐息がほんの少し熱を帯びる。
ボクはそこを何度か撫でると、そのまま、するりとブリーフの中へ手を忍び込ませた。
直に触れると、熱く脈打っているのが分かって、ボクはわずかに戸惑いを覚える。
だが疼きだした欲望には逆らえない。
(3)
「…は…っ…」
ゆっくりと、けれど的確に扱いていく。追い上げていく。
先の方を弄り、滲み始めた液を全体に伸ばし擦りつける。
「…っ…ぅ…」
右手で陰茎を、もう片方の手で、その下の双珠をもみしだく。
執拗に快楽を追い求める――。
「…ぁ…しんど…ぅ…」
息が上がる。身体が熱くなっていく。
今、ボクに触れているのは彼の指。ボクを魅了した碁打ちの指。
ボクを愛撫するのは、進藤ヒカル――。
「…っくっ…ああ…ッんん!!!」
声と一緒に白濁の液体がほとばしった。
自分の手にかかった生温かい感触が心地よかった。
射精の余韻に浸って、茫洋とした意識のまま、
「…進藤…」
声をかけたが、返事はなかった。暗闇へ視線を彷徨わせる。
――幻影<まぼろし>は消えていた。
『なぜボクはキミを追い、なぜキミはボクを追うのか』
キミの答えがボクの答えと同じだったらいいのにね……。
瞼を下ろすと、その頬をひとすじの滴がゆっくりと伝い落ちていった。
end
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