祭りのあと 1 - 3
(1)
「今日の花火大会すごかったよな」
会場をあとにして駅に向かう途中、ヒカルはずっと冷め切らぬ興奮を抑えきれないように話した。
「キャラクター花火っていうのか? 星の形とかの花火って、オレ初めて見たよ」
「そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。誘ってよかった」
アキラはうれしそうにヒカルの話を聞いた。
大規模な花火大会のため、歩くのもやっとというくらい混み合っていたので、来た当初ヒカルは来なきゃよかったとふくれていた。
しかも慣れない浴衣で来たため、ヒカルは何度も浴衣を着崩してしまった。
浴衣姿のヒカルを見たくて、浴衣で来るように頼んだ自分の責任でもあるが、裾からのぞく足を見ず知らずの者の目にさらしたくはなく、アキラは神経質になった。
しかしヒカルはそんなことなど気にもせず、裾をなびかせながら歩いていていく。
そのせいで何度もナンパされそうになり、アキラはその度に鋭い目つきで相手を威嚇した。
(2)
「この分じゃ、当分乗れそうにもないね」
アキラはまたふくれているんじゃないかと、ヒカルの様子をうかがった。
「仕方ねェよな。でもその分いっぱいしゃべれるからいいじゃん」
ヒカルは屈託のない笑顔で笑う。
アキラはその笑顔を見て、胸がときめくのを感じた。
キスしたい。今すぐここで抱きしめてキスをしたい。そんな思いにかられる。
ヒカルはそれに気づくことなく、先程の花火の話を続けた。
(3)
やっとのことで乗り込んだ車内は、何度か見送ったにもかかわらず、押しつぶされそうなくらい混んでいた。
車内の一番奥の窓際のすみに陣取ったアキラは、ヒカルが人に押しつぶされないよう、自分の体を盾にして立った。
「塔矢、苦しくないか?」
眉をよせて額に汗を流しながら耐えるアキラに、ヒカルは心配そうに声をかけた。
「大丈夫だよ。進藤こそ、苦しくないか?」
アキラは余裕があるとでもいうような笑顔をつくってみせる。
「オレは大丈夫だけどさ・・・」
そう言うとヒカルは恥ずかしそうに俯いた。混んでいるため、周りには気づかれていないだろうが、二人はとんでもない格好をしていたのだ。
両手でヒカルの体を守ろうとアキラは踏ん張っているのだが、あまりにも至近距離で向かい合っているため、まるでキスでもしているかのような感じなのだ。
しかもヒカルの足の間にはアキラの片足があり、人ごみで揺れる度に、ヒカルのそれを浴衣の上からアキラの足が刺激する。
ヒカルは変な気持ちになって逃げ場を探した。とりあえず、このアキラの足だけでもどかさないと、自分の体の異変を気づかれてしまう。
ヒカルは早く次の駅に到着して、客が少しでも減ることを祈った。
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