痴漢電車 1 - 3


(1)
 ヒカルは一人で駅のホームに立っていた。俯いて恥ずかしそうにモジモジと膝を
こすりつけている。頼りない華奢な痩身。その小さな顔にはいつもの強気な彼とは思えないほど、
心細げな表情を浮かべている。その原因は、彼の身につけている衣装のせいだろう。
 ヒカルは、チラッと周囲に視線を走らせた。自分が困っている姿を彼らは陰でこっそりと
見ているに違いない。と、そのとき学生らしい男と目があった。相手は慌てて、ヒカルから視線を
そらすと早足で行ってしまった。その後ろ姿をボーっと見ていたヒカルは、背中に視線を感じた。
振り返ると若いカップルが自分の方を見ながら、顔を寄せて何か囁きあっている。
 気のせいだろうか、道行く人がみんな自分を見ているようだ。笑われていると思うのは、
自意識過剰だろうか?
 ヒカルは恥ずかしくて、ますます顔を上げられなくなった。


―――番線を電車が通過します。危険ですので白線の内側までお下がり下さい。
 プラットホームにアナウンスが響いた。ヒカルはハッと顔を上げて、アナウンスの言うとおりに
一歩後ろにさがった。
 ヒカルの目の前を電車が通り過ぎていく。そのときに起こる風が彼の全身を煽った。
『ちくしょ―!帰ったらアイツら絶対タダじゃおかネエ!!』
ヒカルは、翻るミニスカートを必死に押さえた。


(2)
 電車が行ってしまうと、ヒカルはホッと息を吐いて、スカートから手を離した。
―――――それにしてもこのスカートはあまりにも短すぎやしないか?こうして普通に
立っていても、下着が見えそうじゃないか! 
 足元もスースーとして、なんだか頼りない。ヒカルはスカートの裾を何度も引っ張った。
このルーズソックスとかいうヤツもゴワゴワしていて、気持ちが悪いし…………
 ヒカルはもう泣きたい気分だった。それなのに…………よりにもよって一番会いたくない人物に
会ってしまった。

 「進藤?」
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。ヒカルは恐る恐るそちらを向いた。
『げ!?塔矢!』
急いで、人混みに紛れようとしたが、その前にアキラに追いつかれてしまった。
 がっちり腕を掴まれて、ヒカルは身動きとれなくなった。
「な、何で、オマエがここにいるんだよ………!」
慌てて捲し立てるヒカルに、アキラは静かに答えた。
「ボクは、指導碁に行った帰りだよ……だけど………」
アキラはヒカルの天辺から、つま先までじっくりと眺め、
「…………キミにそういう趣味があったとは知らなかったよ………」
と、感心したように言った。


(3)
 「ち、ちが、違うよ!違うんだ!!」
「………………いまさら、隠さなくても………」
ヒカルが必死になればなるほど、アキラは冷めた目でヒカルを見遣る。
 ヒカルは、涙が出そうになった。こんな恥ずかしい格好をアキラに見られてしまうなんて……。

 「ゴメン……冗談だよ。」
今にも泣きそうなヒカルの情けない顔を見て、アキラはフッと視線を和らげた。
「………で、本当に何でそんな格好しているの?」
 ヒカルは、キッとアキラを睨み付けた。自分は本気で困っているのに、からかうなんて……。
それでも、誤解されたままはイヤなので、気は進まないながらもことの顛末を話し始めた。



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