Uneasiness 1 - 4
(1)
…ふいに昔のことを思い出すことがある。
塔矢との対局。プロになって初めてのデビュー戦。
オレは恐れながらも待っていた。
やっと塔矢と対局できる。そう思うと震えが止まらなくて。
――ところが開始時間になっても塔矢は来なかった。
嫌な想像ばかりが浮かんだ。
心臓の音がやけに大きく耳元で響いた。
…まさか、事故にでも遭ったんじゃないだろうか。
不安で、一瞬、目の前が暗くなった。
さっきまでとは違う震えが生まれてくる。だから。
「塔矢名人が倒れられて救急車で病院に…」
そう聞いた時、不謹慎だけど、ほっとした。
塔矢アキラじゃなくてよかった、と――。
あれから、もう随分経つのに、まるで昨日のことのように、
鮮明に憶えている。忘れられない少年時代、想い出の一ページ。
佐為がいなくなって、悲しくて苦しくて、泣いてばかりだった日々。
いるはずのない姿を求めて振り返ると、そこに塔矢がいた。
もうオレには塔矢しかいないんだ。
そう気づいてから、塔矢はオレにとって前以上に大きな存在となった。
塔矢と結ばれて、塔矢がオレのモノになって。
ケンカもよくしたけれど、いつも最後はキスをして仲直り。
幸せ…だと思う。泣きたくなるくらい、塔矢が大好きなんだ。
(2)
だけど急に不安になることがある。
塔矢を失うかもしれないと、恐ろしい考えにとらわれてしまう、そんな夜――。
「塔矢…塔矢…」
オレは熱に浮かされたように、塔矢を求めてしまう。
心も身体も。
もう失いたくない、誰も。
「進藤…」
触れる吐息も全て自分のモノにしたくなる。
舌を絡めて、唾液を分け合うキスをして……。
潤んだ瞳で、オレを見つめる塔矢がいとおしくて、何度もくちづけを繰り返す。
でも…キスだけじゃ足りない。もっと欲しい。
塔矢の服を脱がしていく。ボタンを外すのも、もどかしい。
引きちぎるように、前をはだけさせて、露になったその白い胸に唇を寄せる。
淡く色づいた部分の先端を舌でつつくように愛撫すると、塔矢の息がわずかに乱れる。
――がまんできない。
早く塔矢と一つになりたくて、愛撫もそこそこに、塔矢の足を開かせる。
その性急な行為に、塔矢は少し戸惑いを見せたけれど、オレが入り口のあたりを
指でなぞり始めると、覚悟を決めたように瞳を閉じた。
舐めて唾液で濡らした指を塔矢の内部に潜り込ませる。
「…っ」
眉を寄せて堪えるような表情の塔矢を見ていると、下半身が疼きを増す。
中をほぐすようにかき回し、探りをいれていく。
塔矢が最も感じる部分を見つけようと、何度か指を折り曲げて、内壁を擦ってみる。
と、ある箇所に触れた瞬間、塔矢のモノがピクッと震えた。
――ココかな。
確認する度に、塔矢は震え、先走りの液を滲ませ始めた。
ずるり。音をたて、勢いよく指を引き抜く。
「…や…っ…」
その抜ける感触に塔矢が声を上げた。
情欲で濡れた瞳をして、オレを見る塔矢に、
「今日は…後ろから、いい?」
訊くと、塔矢は伏せ目がちになって頷いた。
(3)
うつ伏せにさせ、腰を高く突き上げるような格好にさせる。
まるで獣のようなポーズを塔矢は嫌うのだけれど、今日はおとなしく
言う通りにしてくれている。
オレは既に高ぶった自分自身を手で押さえて、塔矢の後ろにあてがう。
待ち構えるようにヒクヒクと蠢く入り口に、ゆっくりと、けれど強引に押し挿れていく。
「…う…あ…ッ」
苦しげな声を漏らす塔矢。
触れ合う素肌に冷たい汗が伝う。
何度していても、この時の痛みには慣れることが出来ないらしい。
痛みを少しでもやわらげさせようと、塔矢のペニスに指を絡めた。
軽く扱いてやると、ふっと塔矢の身体から力が抜けた。
その隙に、オレは一気に腰を進めた。
「――!」
声にならない悲鳴が塔矢の口から放たれた。
奥まで突き入れたオレ自身は熱い粘膜に包まれ、しばらく馴染むのを待ってから、
「…塔矢」
名前を呼ぶと、塔矢は小さくうなずいた。
それを合図に、オレは腰を使い、塔矢の中を動き始めた。
「…う…っ…はぁ…」
塔矢の口から喘ぎ声が漏れる。
吐息が熱を帯びている。
「とう…や…塔矢…」
荒く息を吐き、何度も名前を呼びながら、腰を打ちつける。
「…っん…アアッ」
さっき探し当てた箇所を突いてやると、塔矢はいい声で鳴いた。
飛び散る汗と互いの熱に翻弄される。
「…塔矢…一緒にイこうな…」
塔矢のモノを扱く手の動きと、腰の律動を早めていく。
白く染まり始める視界。
オレが塔矢の中に熱い欲望を注ぎ込むのと同時に塔矢もオレの手の中に精を放った。
(4)
――全てを終えて、素肌のまま、仰向けに寝転がっているオレに、
「…進藤」
声がして、その方を向くと、塔矢が真摯な瞳でオレを見つめていた。
「…わりぃ。ちょっと急ぎすぎたよな。身体、平気か?」
白いシーツの上、同じように横たわる塔矢に手を伸ばす。
その黒髪に触れようとして、ふいに塔矢の手がオレの手をとらえた。
指を絡ませてくる。
合わさった手のひら、やわらかな温もり。そして。
「…ボクはいなくなったりしないよ」
塔矢の唇から意外な科白がこぼれた。
「――」
驚いて目を見開いたオレに、塔矢は続けた。
「ボクは消えない。ずっとそばにいるから」
それはオレが今、欲しがっていた言葉だった。
塔矢はそっと近づいてきて、オレの唇に軽く触れるだけのキスをした。
……塔矢は何もかも分かっているんだ。
何も言ってないのに、いつだって塔矢は気づいてくれる。
佐為みたいに心が繋がってるわけじゃないのに、どうしてなんだろう。
オレの不安な気持ちを知ってて、時々、とても優しくしてくれる。
急に涙があふれてきた。
大人になって、もう泣いたりしないって決めていたのに。
「進藤…大丈夫。ボクはここにいるよ」
安心させるように微笑んで、オレを抱きしめる塔矢を、心から愛しいと思った。
愛しいと書いて『かなしい』と読むのだと、教えてくれたのは誰だったのか…。
遠い昔に見たきりの懐かしい笑顔が、記憶の中で揺らめいて消えた――。
end
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