初めての体験 Asid 1 - 4


(1)
 進藤と付き合うようになって、ボクは、自分の中にS因子を発見してしまい、少々
戸惑っている。前から、その兆候はあったのだ。
 この前も競馬中継を見ながら――――どういう経緯でそれを見たのかは、憶えていないが
―――― つい言ってしまった。
「あれってどこで手に入るんだろう……」
みんなはびっくりしてボクを見た。約一名盛大に咽せているし…。
「アキラ君、馬が欲しいのか?」
「まだ、ムリだろう…ははは…」
お父さんの門下の人たちが笑った。
「そうですね。お父さんみたいに五冠になったら、手に入れられるかもしれませんね。」
と、笑って見せた。外面がいいのはボクの取り柄だ。
 でも、実際、ボクが見ていたのは馬じゃない。騎手の方だ。正確には、騎手の手元。
馬に振り下ろす鞭だ。
 あれを進藤に使ったら……想像しただけでゾクゾクする。進藤を傷つけるのは、
可哀想だが……進藤の肌に紅い色は良く似合うと思う。
 そんなことを考えていると、緒方さんが何か含みのある目でボクを見ていた。まだ、
ゴホゴホと咳をしている。
 なんですか?言いたいことがあるなら、はっきり言ってください。それより、煙草―――
気をつけた方がいいですよ。あーあ、ほら……。緒方さんは指先に軽い火傷を
おったようだ。
 …………煙草……いや、さすがに煙草は可哀想だ。ボクはその考えを振り払おうとした。
でも…もっとソフトな物ならどうだろうか?例えば、ローソクとか…。

 こんな自分をボクは持て余している。しかし、気が付けば、ネットでその手のサイトを
まわっていたりするのだ。そうか…馬用と人間用は違うのか…そりゃそうだろうな…
へえ…熱くないローソクってあるんだ…。余計な知識ばかりが身に付く。そればかりか、
無意識のうちに、購入ボタンを押している自分が怖い。
 最近、お気に入りのサイトも出来てしまった。そこにUPされている写真が…ふふ…。
そのお陰で今は、何とか保っているけど…どこまで我慢できるか…。


(2)
 「ああん…やだ…」
進藤が、ボクの手の動きに反応して身体を捻った。その仕草がものすごく色っぽい。
「イヤじゃないだろ?ほら…先っぽヌルヌルだよ?」
進藤の股間を嬲る手を休めずに、彼の耳元で囁いた。進藤の身体が一気に熱くなり、
肌が桜色に染まった。かわいい…!あんまり、可愛いので、もっと虐めたくなる。
「進藤、ボクにこうされるの好きだよね?」
舌の先でつついた。
「ひゃあん!」
進藤が、身体を仰け反らせて、喘いだ。進藤のモノが、ボクに押しつけられる格好に
なったので、そのまま全部呑み込んで、激しくしゃぶり上げた。片手で進藤の腰を抱きながら、
もう片方の手で後ろを探る。優しくほぐすように、少しずつ中に指を埋めていく。
「あ…あふ…とおやぁ…」
進藤は、もう耐えきれないといった様子で、身体をくねらせた。ああ…!可愛すぎる!
 ボクは、進藤の腰を抱え上げて自分の膝の上に乗せた。位置を確かめ一気に引き寄せた。
「ああっ!ア――――――――!」
ボクがちょっと身体を揺する度、進藤が短い悲鳴を上げる。その可愛い声を聞きたくて、
何度も小刻みに身体を揺らした。
「あっ…あっ…やだぁ…あん!」
閉じられた目元は紅く染まり、悲鳴を上げる口からは、涎の筋が何本も喉元に流れている。
進藤は、視覚や聴覚、感覚からもボクを昂ぶらせていく。
「とうや…とうや…」
彼は譫言の様にボクの名前を呼び、激しく頭を振った。
「あ、あ、ああ…あぁ――――――」
進藤の身体が突っ張って、その後、かくんと力が抜けた。


(3)
 進藤との夢の様なひとときは、ボクの中に甘い陶酔感をもたらす。程良い疲労感が
二人の身体を包んでいた。ボクの隣で、進藤はもう可愛らしい寝息を立てている。
 ああ…幸せだ…。それなのに、何故だろうかすっきりしない。満たされているはずなのに
満たされていない。何故だろうなどと、考えるまでもない。原因は明白だ。ボクの中の
アレが…騒ぐのだ。
 ボクは、想像の中で、先ほどの進藤を縛り上げてみた。進藤は、「やめてよ」と、ボクに
訴える…。
 自然と股間に手が伸びる。想像の中の進藤の涙に、ボクはどんどん昂ぶっていく。
ああ…!進藤…!
手の中に放たれたモノに、ボクはいささか落ち込んでしまった。隣に生身の進藤が、眠って
いるというのに…!!ボクは、最低だ!
 進藤に気づかれないようにそっとベッドを抜け出て、手を洗いに行った。ごめんよ…。
進藤の愛らしい寝顔が、余計にボクの罪悪感を強くした。


(4)
 昨日のことで落ち込んでいるのに、よりにもよって、棋院であいつに会ってしまった。
なんて言ったっけ?和谷?彼はいつもボクを敵視している。今日も、思い切り睨みつけられた。
睨みたいのはこっちの方だ。いつも、いつも、進藤に馴れ馴れしくして!
 ああ!ムカムカする!ボクは彼に何もしていないのに、何であんな風に嫌われなければ
いけないんだ!?ただでさえ、今日は機嫌が悪いんだ!

 「キミは、何だっていつもボクを睨み付けるんだ?
  ボクが何か気に障ることでもしたのか?」
ボクは、棋院の屋上に彼を呼びだし、激しく詰問した。彼は、何も答えず目を逸らした。
自分でも後ろめたいらしい。そうだろう。だいたい、ボクは悪くない。一方的に嫌われて、
文句の一つも言いたくなって当たり前だ!ボクは、和谷を睨んだ。
 ……だが、こうしてじっくり見てみると、和谷は進藤とどことなく似ている。外見の
話ではない。雰囲気とかが、かぶるのだ。ボクはちょっと考えた。ふうん…これは……
ちょうどいいかもしれない。
 ボクは、俯いている和谷を、いきなり力任せに引きずり倒した。そして、鞄の中から
手錠をとりだし、素早く彼を後ろ手にしてそれをかけた。



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