初めての体験 ASIDE 番外・バレンタイン 1 - 4
(1)
「塔矢…コレ…」
進藤が恥ずかしそうに小さな包みを差し出した。コ、コレはもしや…!?ボクは、その場で
踊り出したいくらい嬉しかったが、進藤の手前、グッと堪えて格好をつけた。
「ありがとう…開けてもイイ?」
進藤はコクリと頷いた。
シンプルな袋の中から、これまたシンプルにラッピングされた小さな小箱が出てきた。
大きな瞳を瞬きもさせず、進藤はじっとボクの行動を見守っていた。ボクは、ドキドキしながら、
慎重に包み紙を剥いでいく。
―――――なんか、進藤の服を剥いでるみたいな気がする……
Tシャツとジーンズ。彼は、いつもそんなラフな格好をしている。それを一枚ずつ脱がして
いくと進藤のスベスベした肌が現れる。見慣れているはずのその身体に、ボクは毎回うっとりと
見惚れてしまう。
『…そんなに見るなよ…』
進藤が恥ずかしげに身を縮める。すらりとした足は、ボクの視線から逃れようとするかのように
固く閉じられている。ボクは、その小さな膝頭に手を添えて、そっと押し開く。
ボクが箱を開けると、予想通り、そこには不揃いな小さなチョコレートが並んでいた。
あぁ…!し・か・も、手作り!←ここ重要。
「ありがとう!食べてもイイかい?」
「うん!食べて!」
それはチョコに対する返事?それとも、別の意味に取ってもイイかい?
(2)
一欠片取って、口に運んだ。甘い…舌の上でとろける…ほろ苦い味が口の中一杯に広がる。
でも……コレは……ほろ苦いっていうより……………………………。
進藤は絆創膏を貼った指先を口に当てて、ボクの言葉を待っていた。
「おいしいよ…ものすごくおいしい…」
進藤の顔がパッと輝いた。
「ホント?」
うん、本当だよ。でも、一つアドバイスをしてもいいかな?
キョトンとして、ボクを見つめる彼は食べてしまいたいくらいキュートだ。
「チョコレートは直接火にかけないで、湯煎で溶かすんだよ。」
「え?そうなの?」
そうだよ。ついでに固まらないからって、冷凍庫で固めちゃダメなんだよ。
「知らなかった…なんで塔矢そんなこと知ってるの?」
不思議そうに小首を傾げる。可愛い…可愛いよ進藤!
ボクは、彼の手に紙袋を握らせた。
「塔矢…コレ?」
ボクは頷いた。進藤、ボクの気持ちだよ。彼は、ボクと紙袋をびっくり顔で交互に眺めた。
それから、嬉しそうに微笑むと、ボクの手に自分の手を絡めて、上目遣いに囁いた。
「今から、オマエん家行ってイイかな…」
もちろんだよ。言うまでもない。ボクは最初からそのつもりだよ!進藤の身体をそっと抱き寄せると、
柔らかい髪から、チョコレートの匂いがした。
(3)
おまけ
学校から帰ると、机の上に小さな荷物が置かれていた。
「進藤からや…なんやろ?」
包みを開けると、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
まさか、コレって………!?
「ウソやろ?」
進藤からチョコレートが………しかも…手作り。
「嬉しいで…」
例え、アキラのついでだったとしても……自分にチョコをくれるとは…。今日もらった
どのチョコよりも嬉しい。この焦げたところがまた堪らない。
社が幸せに浸っていると、階下から母の呼ぶ声が聞こえた。
「清春〜塔矢って人から荷物が来とるよ〜」
手の中から、チョコレートがこぼれ落ちた。
おわり
(4)
おまけのおまけ
「う、受け取り拒否してくれ!」
社は、母親に叫んだ。
「なんで?もう、受け取ってしもたわ…」
不思議そうに首を傾げながら、母は荷物を差し出した。
悪魔からの贈り物を前に、社は悩んでいた。小一時間もたった頃、
「悩んどっても、しゃーない…」
と、覚悟を決めて、荷をほどいた。
「あれ?」
意外にも中身は、普通のチョコレート。しかも、一粒、何百円もする超高級チョコレートが、
ぎっしりと詰まっていた。
どうして、アキラがこんなモノをくれるのか………?社は悩んだ。
そして、ハッと気がついた。
「ホワイトデーは三倍返し……」
本命以外にこのルールは適用されない―――――と、いう言い訳はきっと通用しない。
ヒカルの手作りチョコと、アキラの嫌がらせチョコを見比べながら、涙に暮れた。
社清春、高校一年。ある冬の日のほろ苦い思い出。
おわり
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