Trinity 1 - 5


(1)
「ちぇっ、棋院もセコいよナァ。3人を1部屋に押し込めるなんて…」
「セコいって、別に経費を切り詰めたわけじゃないだろう?チームワークを考えて同室にするって
事務局の人もいってたじゃないか」
ぼやくヒカルをアキラがなだめた。
「そんなこと言ったって、このベッド見てみろよ。こんな狭くて固いんだゼ。おまけに壁にピッタリ
くっついてるしサ。こんなんじゃ寝らんないよ」
ふくれるヒカルに、アキラはあきれ気味に言った。
「仕方ないだろう、エキストラ・ベッドなんだから」
「そりゃ、オマエはイイさ。セミダブルだもんな」
「ジャンケンで勝った順に大きなベッドにしようと言ったのはキミだ」
「そりゃそうだけど…」
「そんなにイヤなら倉田さんの部屋にいったらどうだ。倉田さんの部屋はツインルームのシングル
ユースのはずだから、ベッドは一つ余っているだろう。知らない間柄でもないだろう?」
さすがに怒り加減のアキラが言い返した。
「ヤダよ!倉田さん、イビキ、デカそうじゃん。そっちいったって寝らんないよ」
「じゃあ仕方ないな。キミが一番小柄なんだし、そこで寝るしかないだろう」
アキラは厳然たる結論を突きつけた。
「悪いな。オレはここで寝さしてもらうぜ。おやすみ」
じゃれあっているような二人の会話を黙って聞いていた社は窓側にある、普通サイズのベッドに体を
横たえて、声をかけた。
「おやすみなさい」
「オヤスミ」
それをしおにアキラはサイドテーブルのルームランプのスイッチを切った。部屋にはフットランプの
オレンジ色の光がわずかに残っただけだった。


(2)
「だああああ……、やっぱヤダ!寝らんない!そっち行くゼ」
言うが早いか、ヒカルはアキラのベッドにもぐり込んできた。
「な……進藤、まったく……」
隣りに体を滑らせてきたヒカルに、アキラはとまどいを隠せなかった。

二人が会ったのは北斗杯予選の夜以来だ。碁会所で別れてから4ヶ月ぶりで言葉を交わした。
そして、互いの体を求めあった。
見つめあった目を離すことができなかった。絡んだ視線に引かれるように、二人は何も言わず
アキラの家に急いだ。アキラだけが暮らすには大きすぎる屋敷に着き、玄関の戸を閉めると、
二人は唇を求めあった。相手のすべてを奪い尽くそうとするように。長い間待ち望んでいたものが
ようやく目の前にあった。誰の束縛も受けない、二人だけのときがあった。その夜、飢えきった
獣のように、二人は互いをむさぼりあった。
だが、その後、二人が一緒に夜を過ごすことはできなかった。アキラはタイトル戦の緊張が続いて
いたし、ヒカルも北斗杯の代表に選ばれたことで企業回りやマスコミの取材、イベント出演と雑用に
追われる破目になったのだ。
3週間、二人は再びカラカラに渇いている。
午後に集合してから前夜祭が終わるまで、二人だけになれる時はなかった。辺りには必ず誰かの姿が
あった。レセプションの前、控室を出るわずかな合間に唇を重ね合わせることが二人にできたことの
すべてだった。

求める相手が目の前にいるのに何もすることができない。アキラのいらだちは募っていた。その想いは
ヒカルも同じだと思っていた。だからこそ、社のいるこの部屋でヒカルに触れるのはやめようと心に
決めていたのだ。ひとたびヒカルに触れれば、押し止めることはできないとわかっていたから。
だというのに……。


(3)
自分の隣りにヒカルがいる。陽射しのような香ばしいヒカルの匂いが自分を包む。アキラは抑制の効かない
自身に溜め息をつき、ギュッと目をつぶった。そして、息を吸いこんで再び目を開くと、心を決したように
右手をヒカルの股間に伸ばしていった。
「お、おい…、バカ……、う…、バカ……、ヤメロって……」
ヒカルが慌てた声をだした。
「気づかれたら、どーすんだよッ」
「大丈夫だ。彼はもう寝てる」
規則正しく上下動する社の羽布団を横目で確認しながら、アキラは答えた。これからすることにもはや
迷いはない。
「会いたかった、ずっと」
「オレも、だけど……」
まだ迷っているヒカルに覆い被さって、その唇をふさいだ。甘い舌をからめとるように強く吸いつけると、
ようやくヒカルの力が抜けた。口腔を探るように舌で押していくと、ヒカルもその動きに舌で応え、
両腕をアキラの首に回してきた。浴衣を脱がすことなど雑作もない。
それからは歓びのときが待っていた。前回ほどではないものの、会えない期間が長かっただけに、満たされ
なかったものを補おうとする気持ちがはやった。
指で、唇で互いの肌を確かめあうと、ヒカルにアキラは押し入った。相変わらずヒカルの内部は狭く、
アキラを強く締めつけてくる。だが、その熱い襞がもたらしたものは、苦痛よりも快楽であり、その歓びは
アキラから思考力を奪っていた。
「イ、クッ……」
「あぁ、イイよ……」
二人がビクンビクンと射精の余韻を漂っているとき、ふいにアキラに掛かっていた羽布団が除かれた。ひんやりと
した風がその背中にあたった。


(4)
怖れていたことではあったが、余韻のただなかの二人には思いもかけぬ展開になった。
「エエ景色や」
行為の最中、ヒカルは声を抑えていたし、アキラもさすがにあまり激しく動いたつもりは
なかった。それでも、二人の気配は伝わって、社の目を覚ましてしまったらしい。
「エエナァ。あんたら、そういう仲やったんか。仲いいわけやな。ソンナラ、オレも仲間
に入れてもらおか」
恥ずかしさと後悔が入り混じりながらもまだハッキリしないアキラの頭に、社が何を言っ
ているのか、その意味するところはすぐ飲み込めなかった。
「チームワークよくせい言うてたもんな。これでバッチリや」
ニヤリと笑うと社はアキラの肩に手をかけた。
ハァハァと肩で荒い息をしながら、アキラは横を向いて社をニラミつけた。
「ニラんだ顔もエエで。キレイな顔して、アンタ、タチか。いっぺん手合わせしたい思て
たんやが、こっちの手合わせが先になるとはわからんもんやな」
「手を離せ」
アキラはうめくように低い声で言った。
「イヤなんか?殺生な。そんなら進藤にしよか?進藤ならもうほぐれてるさかい、すぐイ
ケるやろ」
臆面もなくいう。肩に置かれた手は離されなかった。
「と、お、や…」
暗がりの中でもヒカルが青ざめているのを感じた。


(5)
「やめろ!進藤に触れるな!!」
「それはナイやろ。そんなん通ると思うか。今までさんざイイとこ見せつけといて、これ
でヤメロゆうてもムリいうもんや」
社の視線はヒカルに移された。
「この間のオマエ、スゴかったぜ。オマエともヤッてみたかったんや」
アキラの肩に置かれた手がヒカルの乱れた髪に伸びようとした。
「進藤には手を出すな!」
ヒカルを抱きかかえるように覆いながらアキラは叫んだ。ニラミつけるアキラが、社の目
には、まるで逆毛をたてた猫に見えた。
ヒカルは性の知識には疎く、こうした行為はすべてアキラがヒカルに教えこんだ。恥ずか
しがりながら、少しずつヒカルはアキラの求めに応えていった。ヒカルを指一本、誰にも
触れさせたくない。とりわけ到達の後の過敏なヒカルの肌には。それだけはアキラには堪
えられなかった。
「さわるならボクをさわるがいい。するならボクにしろ」
「よっぽどコイツが大事とみえるな。ま、オレはオマエとヤッてみたかったんや。仲良く
しようぜ」
社が浴衣の帯を解く音がする。
「とお、や…」
腕の中のヒカルを震えた。
「いいんだ。キミが怖がることはない…」
その言葉が終わらぬうちにアキラの顎はつかまれて、その唇を社が覆った。



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