ゲーム・マスター 1 - 5
(1)
小学生の頃、誰しも一度は経験するスカートめくりやカンチョー。それは塔矢アキラも例
外ではなかった。
「なんか最近つまんなくね〜」
「確かに」
「言えてる〜」
屋上で三人の少年が昼休みをまったりと過ごしていた。小学六年生というと色々な面で好
奇心旺盛な年頃だ。だがその好奇心を満足させられるほど、少年らに刺激はなかった。
三人とも浮かない顔をして空を見上げる。
「なんか楽しいことないか?」
「あるかよ」
「っていうか、あったらもうしてるし」
「だよな〜」と言うと少年はグランドを見下ろした。するとグランドに同じクラスの塔矢
アキラの姿を見つける。学級委員であるアキラは、次の授業の体育で使用するボールなど
の準備を体育係と一緒に準備していた。
「塔矢ってさ、スンゲ〜真面目だよな」
「頭良いしな。そういや囲碁やってんだっけ」
「囲碁? なんかジジくさくねぇ?」
少年らはそろってアキラを見下ろす。
「アイツって普段何して遊ぶんだろ」
「だから囲碁だろ」
「そんなのやって楽しいのか?」
囲碁などやったことのない少年らは、まるで宇宙人でも見るようにアキラを見る。
「…なぁ、それって不健康じゃないか? やっぱ子どもは元気に外で遊ばなきゃさぁ」
少年はアキラを見つめ、なにやら楽しそうに笑った。それは悪巧みを思いついた時の顔だ
った。
「なんだよ。面白いことでも思いついたのか?」
少年らは目を輝かせる。
「まあな」と言うと、その少年はニヤニヤとしながらアキラを見つめた。
(2)
体育の授業を終え、教室で着替えを始めた時だった。
アキラは窓際の席で黙々と着替えている。少年らはアキラが体操着を脱いで下着一枚にな
るのを待った。
アキラは自分が見られていることに気付かず体操着の短パンを脱ぐ。
今だとばかりにアキラの尻の穴めがけて少年らのうちの一人がカンチョーをした。少年ら
はアキラの反応を楽しむつもりだった。あの真面目な学級委員がクラスメイトの目の前で
大失態を犯すか何かしら事件を起こせば少年らの企んだ通りだった。だが予想ははずれた。
「ヤンッ!!」
アキラはその年頃の少年には刺激的過ぎる甘い声でないた。クラス中の男子がその声に反
応してアキラの方を見る。
カンチョーをした少年はその声に驚いて更に指をねじ込んでしまった。
「あ…、抜いて」
その声に教室にいるほぼ全員の男子が前かがみになった。
「ふざけるな、田中君。キミはなんてことをするんだよ」
アキラは涙目になってカンチョーをした少年田中の手を振り払うと睨んだ。
「ご…ごめん」
田中は謝った。だがその場から動けないでいる。しかし動けないでいるのは田中だけでは
なかった。じっとクラスメイトが自分を見つめて動かないでいるのに気付き、アキラは注
意した。
「皆早く着替えないと次の授業始まるし、女子も教室に入ってくるよ?」
教室の異様な雰囲気にアキラは不思議そうに小首をかしげると、なにごともなかったかの
ように着替えの続きを始めた。
だがクラスメイトのアキラに対する目つきは確実に変わっていた。
(3)
翌朝、教室の空気は重かった。朝から体育の授業だったからでもある。それは昨日の事件
を皆に思い出させていた。
当のアキラは例のごとく準備のため、すでに着替えを終えて教室をあとにしていた。残さ
れたクラスメイトは皆寝不足そうな顔をしたり、悩みを抱えているような暗い表情をした
りして、何も言わずに黙々と着替える。
「昨日の塔矢、すごかったよな」
その沈黙に耐え切れなかった田中は口を開いた。
それに賛同するかのように皆一様にため息をつく。
「オレなんかさ、あの声のせいで眠れなかったんだぜ」
田中の友人鈴木は疲れた声で言った。
「っていうか、オレ…」
着替えもせずにずっと席に座っていたもう一人の友人佐藤は思わず席を立った。なにやら
ひどく思いつめた表情でいる。
「なんだよ、佐藤」
今まで見たこともない佐藤の悲痛な表情に、田中は心配そうに声をかけた。
「…やっちゃった。オレ、アイツで…塔矢で抜いた」
佐藤はそう言うと泣き出した。いくら淫靡な声を聞いたからって、男であるアキラをおか
ずにやらなければ気がすまなかった自分が悔しくて、佐藤は涙をとめることができない。
だがそんな佐藤を慰めるようにクラスメイトが集まる。男で抜いたとなれば、普通は疎遠
な態度を取るだろうが、佐藤の勇気ある告白にクラスメイトの反応は温かかった。
「佐藤泣くな。あれは塔矢が明らかに悪い。それに塔矢をおかずにしたのはおまえだけじ
ゃなさそうだぜ」
田中はそう言って慰めた。佐藤は恐る恐る顔を上げる。すると実はオレもと告白するもの
が出てきて、自分だけじゃない安心感から佐藤はまた涙を流した。
教室には今までにない連帯感が生まれた。クラスメイトたちは今、初めてお互いの絆を感
じている。
(4)
「しかし困ったよな」
鈴木はアキラの机へ行き、着替えを手に取った。
「ほら、塔矢ってあんな頭してんじゃん。初めて会ったとき、女って勘違いしたんだよな。
それにアイツ未だに声変わりしてねーし、囲碁ばっかやってるせいか女子より色白だしで、
あの声聞いてから本当は女じゃねーかって疑うようになっちゃってさ」
鈴木はアキラのズボンを手に取ると、天井に向かって投げて遊び始めた。
「塔矢が女だったらこんな風に悩む必要ないんだけどな〜」
その言葉に田中が口元をニヤリとさせた。
「もしかしたら女かもしれねーぞ」
クラスメイトは一斉に田中を見た。
「だってよく考えてみろよ。男がカンチョーされてあんな声出すか? それに男のくせに
おかっぱってのが変だし。オレはアイツのチ○ポを生で見るまで男だって信じねーぞ」
「信じねーっておまえ、塔矢が男なのは当然だろ」
鈴木は冷静に言い返した。だがどこかで自分も田中のように思っていることに気づく。
「オレ見たい。ていうかアイツのチ○ポ見て男だってはっきりさせないと、オレこのまま
じゃ何度もアイツで抜いちゃう気がする」
佐藤は決心したかのように田中を見た。
「そんじゃあさ、アイツの身体検査やらないか?」
田中の提案にクラスメイトは息をのんだ。
「塔矢は頭のきれるヤツだ。けどオレ達皆が協力すれば、アイツを裸にすることくらい簡
単だろ?」
田中は自分で言いながら興奮した。信じられないくらい胸がドキドキしている。
久しぶりに見つけた楽しいおもちゃに、少年らの興奮は止まらなかった。
(5)
「皆さんさようなら。先生さようなら」
そのかけ声とともにいつもなら教室から走るように出て行く男子が、今日は一人もいなか
った。
「先生、あのお願いがあるんですけど」
田中は担任の山田のもとへ行った。その様を男子一同は固唾を呑んで見守った。
「学級会を今からボク達男子だけで開きたいんですけど、いいですか?」
「学級会をこれから? なにも今日の放課後じゃなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、緊急なんです。実は最近女子から苦情が多くて。小学校最後のクラスなのに、こ
のままじゃ学級崩壊になるかもしれないんで、今日皆で話し合おうって決めたんです」
まだ若い男性教師である山田は、いつも手を焼いている田中のまじめぶりに驚いた。
「田中君も真剣に考えたりするんだな。わかった。でも職員会議があって先生は付き合え
ないんだ。それでも大丈夫か?」
「大丈夫! っていうかむしろ好都合!」
「好都合?」
田中の発言に山田は眉をひそめた。
「あ、いや。女子や先生をびっくりさせようと思ってたから」
田中は急いで弁明した。
「そうか。すまんが塔矢君、学級会を開きたいそうだからまとめてくれないか? 田中君、
先生がいないからって悪さするなよ」
山田はそういうと田中の頭をくしゃっとなでた。
ランドセルを背負って帰ろうとしていたアキラは、山田にそう言われて田中のもとへ行っ
た。
「田中君。悪いんだけど、ボクこの後用事があるから早く帰らないといけないんだ。簡単
でいい?」
アキラはすまなそうに言った。
間近でアキラに見つめられた田中は「オウ」と照れくさそうに返事をする。だが口元はこ
れから始まるゲームへの喜びからニヤついていた。
「それではこれから学級会を始めるので、皆準備をしてください」
アキラの掛け声とともに、男子は席から一斉に立ち上がった。
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