初詣妄想 1 - 5


(1)
今日は、遅ればせながらアキラたんと初詣だ。
アキラたんと付き合って初めての新年。
もちろん今日祈るのは、アキラたんの幸せと、アキラたんの健康と、
そして最後にアキラたんと俺の円満な関係―――

「アキラたん!おはよう!明けましておめでとう!」
「あ、明けましておめでとう。それよりすまない、待たせてしまって…」
な、なんて謙虚なんだアキラたん…まだ10分前だというのに。
「ううん、いいんだよ、アキラたん。俺も今来たところだし、
 アキラたんを待たせたくなかったし」
本当は30分位前から待っているんだけど、それは秘密だ。
アキラたんは大概、待ち合わせの10分前に着いて待っているけど、
よりによってこんな寒い時期に、
アキラたんを外で10分も待たせておくわけにいかない。
「じゃあ、行こうか?」
「うん」
アキラたんは極上の笑顔をくれて、俺も嬉しくて微笑んだ。
 
 


(2)
「あの、今日は初詣にいくんじゃあ……」
近くのビルの地下へと降りようとする俺に、アキラたんは不安げに声をかけてきた。
「うん、そうだけど、先に腹ごしらえした方がいいかなと思ったんだけど…。
 大丈夫だとは思うけど、でも今日、日曜だし、もし混んでたら
 お昼食べそこねちゃうかもしれないかなって」
「あ………そう、かな…」
「この店、すごく美味しいっていうから、アキラたんと来たいって
 ずっと思ってたんだけど、どうかな?」
そんな俺の言葉に、アキラたんは「じゃあ、先に食べようか」と微笑んでくれた。
そう。この店は、俺のリサーチによると、雑誌に載ったりはしないものの、
近所のOLさん達の間で評判の店だ。ビルはちょっと小汚いし、
殆どカウンターしかない小さな店だけど、アキラたんにはやっぱり
美味しいものをご馳走したい。
 
 


(3)
ランチには少し早いかと思いきや、店は客で埋まっていた。
10分ほどで席が空くと、運良く、2つしかないテーブル席の一つに通された。
カウンターの方がアキラたんとの密着度が高いし、良かったんだけどな。
―――と思ったんだけど、前言撤回。
くるぶしまである長い長いコートの下から現れたアキラたんの姿に、
俺は目がくぎ付けになった。いやぁ〜、この姿がちゃんと見られない
カウンター席なんて論外、論外!
「アキラたん!早速着てくれたんだね!ありがとう!すっごく似合うよ!」
俺のクリスマスプレゼントで全身を固めたアキラたんは、俺の予想以上に
『素敵』という堅苦しくも美しい言葉がぴったりだった。
俺はクリスマスは朝から仕事で、慌ただしく出掛けてしまった。だから、
プレゼントに袖を通した姿を見るのは初めてだ。
「大丈夫、かなぁ?なんかうまく着られなくて…。下は丁度良かったんだけど」
今日のアキラたんは、白いコットンのシャツの上に、
オフショルダーのタートルのニット、そして下はジーンズだ。
いつも行く店で見かけたそのニットが気に入ったので、
それと合う色味のジーンズもプレゼントした。
思った通り、いや、それ以上に、アキラたんに良く似合っている。
「大丈夫、大丈夫!それよりアキラたん、先に注文しちゃおうか。何にする?」
おしゃべりばかりもしていられない。俺達は手早く注文を済ませた。
 
 


(4)
「アキラたん、すっごく似合うよ。サイズもぴったりだね」
素敵だよ、とは、思ったけれど、恥ずかしすぎて口には出来なかった。
ジーンズは、以前アキラたんがふざけて俺のズボンを履いたときの感じから
サイズを推測してみた。ちらっと見ただけだから何とも言えないけど、ちょっと緩め?
でも十分いける。うまく着られなかったというのは、きっとあのニットのことだろうな。
シャツはプレゼントしてないけど…これはアキラたんが自ら組み合わせたのだろう。
だけど、シャツがなかったら、鎖骨辺りや二の腕とか、肌の露出が眩しすぎて
そんなアキラたんを前に普通に食事なんて出来そうにないし、
なにより、アキラたんの玉の肌を衆目に晒すなんて、とんでもない。
だからこんな感じでいいと思う。
「うん、ありがとう。でもこれ本当に着るのが難しくて…」
うまく着られなくてお母さんに手伝ってもらったら、
「こんな服いつ買ったの?どうして買ったの?」とか随分質問攻めにされて、
答えに困っちゃった、とアキラたんは笑っている。
確かに、トレーナーとタンクトップが絡みついてくっついたような
妙ちくりんな作りのあのニットには、アキラたんのお母さんもさぞ戸惑ったことだろう。
店で見たときも、ちょっとは複雑かなとは思ったけど、今こうしてアキラたんが
実際に身に付けた姿を見ていると、予想より遥かに難しい作りだったかもしれない。
 
 


(5)
「うん、大丈夫。いい感じ。それより、あとで後ろ姿も見せてよ」
「いいけど……、後ろは、前よりずっと凄く妙な感じだよ?」
そりゃあそうだろう。そんなデザインの服と知っていて買ったのは、他でもない俺だ。
「へぇー、どんな感じなのか、見たいなあ…」
「それじゃ…」
アキラたんは早速後ろを向いて見せようとしてくれたのだが。
「アキラたん!だったらお参りの後、家に来ないか?うちでゆっくり見せてよ」
「え……」
アキラたんは言葉に詰まって、視線をふらふらと彷徨わせながらも俺を見つめている。
ああ、なんて可愛いんだアキラたん!
「でも、いいの………?」
やっと搾り出された言葉も、その遠慮がちな仕種もまた可愛い。
「うん、アキラたんに遊びに来て欲しいな。駄目かな?時間ない?」
「ん…じゃあ、ちょっとだけ、お邪魔しようかな…」
アキラたんは、遠慮なくがっつきはじめている俺に、はにかんだような笑顔をくれた。
 
 



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