少年王アキラ 1 - 5


(1)
ちっちゃくても一国の主の城は今日もひっそり栄えていた。
先日城に入ってきた不審人物を、思う存分愛用の鞭でお仕置きして御満悦だった
プチスレの少年王アキラは、今日もコスモスの花びらを一枚一枚千切っていた。
「スキ・キライ・スキ・キライ…スキ…」
手元の茎に残った花びらは最後の一枚になり、アキラ王子は唇を噛んで
とうとうベッドに倒れ伏した。
「なんで、なんでいつもこうなるんだ……!」
傍に寄り添うように立つ、可憐な執事が困ったように王子の肩に手を置く。
「王子…お気を確かに」
「どうしてだ座間!? ボクの愛が…ボクのレッドに対する愛が足りないと
いうのか…?」


(2)
とりあえず>869の続き。続き書きたい奴いたら頼むよ。

アキラ王は涙に濡れた頬を拭いもせず叫んだ。王は生まれた時から生っ粋の
王子様なので、自分で顔というものを拭いたことがないのだ。
「答えてくれ座間……!!」
レェスのハンケチを手に、執事はオロオロと少年王の周りを歩き回る。その
度に胸ポケットに忍ばせたスズランの香りが可憐に舞った。
執事は、とにかく可憐な趣味をしていた。
「あの…コスモスは花びらの数が8枚なんです…」
「だから何だというのだ?」
「スキから始めると、どうしてもキライで終わるようになっているのでは」
「ボクにキライから始めよと言うのか!? ふざけるなっ!」
少年王は自分のボキャブラリーの中で最大の侮蔑を込めた言葉を叫び、また
ベッドに顔を埋め泣いた。
「そんな酷いことをいう執事なんて……ひっく、後でお仕置きだ……!」
「ええっ! そんな………」
レェスのハンケチを握り締めて怯えながらも、執事は身体の奥に眠る甘美な
思い出に一瞬浸った。
 鞭を振るう王の美しい姿は天下一品である。その華麗な鞭さばき故、父王
は早い時期の隠居を決意したと謳われるほどだ。


(3)
美しさと傲慢さでは類を見ない我らが主君。その絶対無二の存在が他でもない自分の
為に鞭を振り下ろしてくださっている――そう思うと、振り下ろされる鞭が与える
鋭い痛みも、一瞬の後甘い陶酔に取って代わるのだ。
そしてその後には必ず与えられる王の右腕たる人物の『癒し』に人々は酔いしれる。
遠い異国からやってきた彼は、かつて貧しい漁村で生まれ育った身の上を滔滔と語り、
元々から涙腺が緩みがちだった父王と王子をかつてないほど号泣させ、入城を許された
という強者だった。
彼の生まれ育った国では薬として当たり前に売られていたという、芋類から作られた
クリームを使っての癒しは、麻薬のように住人の心を虜にしている。
(王子のお仕置きを受けたら、またあの人に慰められるのかもしれない)
座間はわずかに前かがみになり、胸ポケットからスズランの香りを放つ扇子を取り出すと
股間の前で握り締めた。
「オヤオヤ、王たる者がそんなところ泣き叫んでいるなんて。敵国に知れるととんだ恥だな」
(オガタンキタ━━━━━━(゚∀゚≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!!!!!!)
ハハハと笑い声がどこからともなく聞こえ、座間は僅かに頬を紅潮させる。
白衣に身を包んだ長身の男が少年王のプライベートルームに颯爽と入ってきた。


(4)
アキラ王は緒方をキッと睨み付けた。一国の王に対して傲岸不遜なその態度は
アキラ王の神経を逆撫でした。アキラ王と緒方の間に流れる緊張感は座間の体にも
伝わってきた。両者の間にある甘く激しい関係は、座間を陶酔の世界へと誘う。
座間は美しい二人をうっとりと見つめた。
「コスモスが気に入らなければ、バラや菊ででも占えばよろしかろう?」
緒方が揶揄した言葉にアキラ王は激高した。
「何を言うのだ!緒方!レッドに相応しいのは可憐なコスモスに決まっているだろう!」
「一目見たときからレッドはコスモスと決めているのだ!
 そのために、我が国の国花をコスモスにしたのだ!それがボクのレッドへの愛の証だ!」
以前はこの国の国花は桜であった。
その美しさ、散り際の潔さを前王は愛した。

緒方は、アキラ王の怒りをそよ風ほどにも感じていなかった。
その様子にアキラ王の怒りはますます激しくなった。
「バラや菊など・・・菊など・・・」
アキラ王の頬が紅潮し、息遣いが荒くなってきた。
(;´Д`)ハァハァと言うアキラ王の息遣いに、座間はよけいに前屈みになった。
緒方への怒りをアキラ王は座間へと向けた。
「座間!お前がよけいなことを言うから悪いのだ!」


(5)
「お仕置き、ですかな?」
可憐な執事・座間はいろんな期待が入り交じった視線でオガタンと少年王アキラをちらちらと
交互に見つめ、前屈みのままうっとりと頬を染めた。
異国から来たオガタンはその姿をゲンナリした様子で眺めると、アキラ王のそばまで歩み寄る。
「プリンス、この執事は…『お仕置きをしないことがお仕置き』になりそうだな」
オガタンは呆れたように溜息を吐くと、アキラ王の顔を上げさせ、自分の白衣から取り出した
絹のハンケチでその滑らかな頬をそっと押さえた。
絹をも切り裂かんばかりの男の悲鳴が、城内に響く。
「そ、そんな………! オガタン!」
座間はそのぽっちゃりした身体をくねらせて、無意識にまいっちんぐ☆ポーズをした。
「さあプリンス、もう泣き止みなさい。今日は金沢競馬場に行く約束だっただろう」
王子はこっくりと頷く。
「そこで英気(と金)を養って、それからレッドを迎えに行けばいいだろ?」
「はい……!」
少年王アキラは競馬が大好きだった。特に万馬券が大好きだった。



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