嘆きの少年王・訂正編 1 - 5


(1)
上体を押え込んだまま背骨の窪みにくちづけ、舌先で軽く愛撫すると、少年の身体が
びくんと跳ねた。
助けを求める少年の抗議の声に彼は耳を塞ぎ、背骨に沿って舌を這わせながら片方
の手で乳首を探り、摘み上げる。その刺激に少年が小さな声を漏らし、身を捩る。
そのまま乳首を玩びながら、ゆっくりと唇は背中から腰へと降りていく。
逃げようとする腰を抑え、双丘を割って谷間から秘められた最奥部へ向かって、たっぷりと
濡れた舌先をそろそろと降ろしていく。焦らすようなゆっくりとした彼の動きに、少年の腰が
震える。その反応に若干の違和感を感じつつも、入口への愛撫を止めず、とがらせた舌で
入口をつつき、弄り、ほぐしながら、唾液でそこを濡らしていった。
何かが違う、という気がする。彼の反応が素直すぎる。僅かに残された思考の隅でアラーム
が鳴る。だが呼び覚まされてしまった彼の獣性はそのアラームを無視して荒らぶり、捕らえた
獲物を責め立てようとする。
少年の拒否の声は何時の間にか彼の愛撫に応える甘い喘ぎ声と化していた。
だがその甘い声を妨げるように、耳障りな音が、彼の耳に聞こえたような気がした。
うるさい、と彼は思った。うるさい、邪魔をするな、と。
そしてその音には構わず少年への愛撫を続行しようとした。
が、その音に気を取られた彼の一瞬の隙をついて、少年は、自分の身体を押え込んでいた
彼の身体を蹴り上げ、そして彼の下からすり抜けて、振り返って彼を見た。
彼は蹴られた肉体の痛みよりも、突然逃げ出した少年が分からずに、半ば呆然として少年
を見詰めた。
怒っているのか、泣いているのか、それとも笑っているのか。
判別のつかぬような表情で、少年は彼を見詰めている。耳障りな音が更に大きく近づいてくる。
少年の顔を見ている内に彼の目は急に焦点が合ってきて、いままで目に入らなかった周囲
の光景の輪郭が明確になる。と同時に、耳に入る音が意味をなして聞こえてくる。
これは、誰だ。今、自分が襲い掛かっていた相手は。
彼の口から少年の名が漏れる。
その名は今やドア一枚隔てられた向こうから聞こえる声と同じものだ。


(2)
「アキラ…王」
彼の呼び声か、それともドアの向こうからの呼び声に応えてか、少年が身体を跳ね起こし、
寝台の横に掛けられていたガウンを素早く着こんだ。
そして彼をそこに置いたまま出入り口へ向かい、ドアを開けた。
「アキラ!何してんだよ!?さっきから呼んでるのに!!」
「…どうしたんだ?キミがここに来るなんて…?」
若干震えた声で、戸惑いがちに少年が尋ねる。
「どうしたじゃねぇよ!もう撮影はじまるんだぜ?なにしてんだよ、こんな所で!」
「撮影…?何の、ことだ…?」
戸惑いの中に期待を隠さず、少年がもう一度尋ねる。
「何のことだ、じゃねえ。表紙の撮影だよ!今日の一時からって聞いてねぇのか、おまえ?」
「聞いてない、そんなこと…そんな…」
そして突然何かに気付いたように大きく目を見開き、大声で呼ばわった。
「座間!座間!!」


(3)
「お呼び頂きましたでしょうか、アキラ王。」
次の間に控えていた執事がいそいそと王の前に現われ、恭しくひざまずいた。
「ボク宛の郵便物を、おまえはどうしたのだ!」
「王宛の郵便物でございましたら、ちゃんとわたくしめが、差出人その他を確認の上、
十分な効果が出るまで、控の間に放置、しておきましたが?」
アキラ王の目が怒りに燃え上がる。
「放置、だと!?ふざけるなっ!!」
ガタッと大きな音を立てて、アキラ王が執事に詰め寄った。
「その中に、ジャムプ偏執部からの報せはなかったか!?
このボクが撮影すっぽかしなど、おまえはボクの顔に泥を塗るつもりだったのか?」
怒りのあまり、アキラ王は座間執事に向かって手を振り上げた。
平手を食らわそうとしたアキラ王は、だが、うっとりとした表情でそれを待ち構えている執事を
見て、なんとか震えながらも手を止めた。そして、振り返って、言った。
「済まない、レッド。」
そして呆れ顔のレッドに向かって真摯に頭を下げた。
「どうやら偏執部からの報せは届いていたにも関わらず、ボクには伝わっていなかったようだ。
ちゃんと確認しなかったボクのミスだ。今から急いで行く。5分だけ、待ってくれ。」
そう行って、身支度を整えるために奥の間へ向かった。


(4)
略装に身を整えたアキラ王は早足で城内を抜け、用意させてあった愛馬へと向かう。
そして愛馬・ハマグリゴイシにひらりと跨ると、馬上からレッドに手を伸ばした。
レッドはその手を取ってアキラ王の後ろに同じように跨った。
「しっかりつかまって、レッド。飛ばすから。」
そしてアキラ王が愛馬にムチをくれると、ハマグリゴイシは大きくいなないて、それから
駆け出して行った。
二人を乗せた白馬は一路、撮影所へと急ぐ。
アキラ王は自分の腰にまわされたレッドの腕と、背中に押し付けられた彼の胸の鼓動を
感じていた。さきほど、中途半端に煽られた身体の芯が熱く疼く。このまま、撮影になど
行かず、レッドと二人でどこかへ消えてしまいたい。そう思った。
だが、そんな訳にはいかない。
帝国の王として、そして全国百万の読者の憧れを一身に担う身として、撮影をすっぽかす
ことなど、あってはならない。
アキラ王は身体の熱を持て余しながらも、撮影所へ向かって馬を走らせた。

撮影所の門を飛び越え、二人の人物を乗せた馬が表紙撮影用のセットの前でピタリと
止まった。息を飲むスタッフ達の前に、アキラ王が、続いてレッドが華麗な身のこなしで
馬上から降りた。
「遅れて、申し分け、ありません。」
息を切らせながら、アキラ王は撮影スタッフに頭を下げた。
「いや、ま、待ってたよ、塔矢くん。間に合ってよかった。とにかく、衣装に着替えてスタンバイ
してくれ。進藤くんも、着替えて他のメンバーを呼んできてくれるか?」
突然の登場に呆気に取られたスタッフはそれだけ言うのがやっとだった。


(5)
「アキラくん、今日の衣装はこれよ。」
満面の笑みでスタイリストの市河嬢が差し出したのは、浴衣だった。
「着付、大変でしょう?手伝ってあ、げ、る。」
「い、いえ、和服は着慣れてますから大丈夫です。」
強引にアキラ王の着換えを手伝おうとするスタイリスト嬢を楽屋からやっと追い払って、
王は軽く息をついた。頬が紅潮しているのも、息が荒いのも、馬を走らせてきたためだと
だれもが思ったろう。だが、アキラ王の身体を今支配しているのは、背後から彼の身体を
抱きしめていたレッドの力強い腕の記憶だった。
こんな感傷に浸っている場合ではない、とアキラ王はパチンと両手で自分の頬を叩いてから、
少年王の略装をするりと脱ぎ捨て、今日の衣装を身に纏った。

「アイツも大変だなあ、そんな執事相手じゃさあ。」
「ああ見えても、抜けた所あるっぽいもんなあ。」
衣装を身に着けて撮影セットに向かったアキラ王の耳に、そんな笑い声が聞こえた。
アキラ王のまなじりがキッと上がる。屈辱と怒りをこらえて、アキラ王はスタッフと他の
メンバーの待つ、セットの前に進み出た。
するとさっきまで笑っていた連中の声が止まった。
アキラ王の、その凛とした涼やかな佇まいに、誰もが息を飲んだ。
「皆さん、ボクの不手際でお待たせしてしまって、大変申し分けありませんでした。」
王がそう言って深々と頭を下げると、漆黒の髪がさらりと落ちて、浴衣の襟元から覗く
白いうなじが、見るものの視線を捉えた。
カメラマンがごくり、と思わずつばを飲みながら、何とか、声を出した。
「いや…と、とんでもない。間に合ったから、大丈夫だよ。塔矢くん。
それじゃ、さっそく、キミはそこの碁盤の横に座って…」



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