セイジのひみつ日記 1 - 5
(1)
彼を映画に連れていった。
彼はあまり気乗りしない様子だったが、たまには外に出たほうがいいと説き伏せると、意外にもあっさりと頷いた。
別に映画でなくても、プラネタリウムや水族館でも良かった。
しかし、時には猥雑な空気を孕む雑踏の中に紛れることも必要であると私は考える。
774 名前:セイジのひみつ日記 投稿日:02/06/21 21:16
特段観る映画を決めていなかったから、私は彼にタイトルを選ばせた。
彼はしばらく逡巡したあと、『海外のものよりは…』と日本の映画を選び、映画館近くの
バーガーショップでホットドッグとポテト、それから飲み物をテイクアウトし映画館へ入った。
実は私もそうなのだが、彼はハンバーガーを食べなれていない。
外で食べるものめずらしさもあるだろうが、袋に顔を近付け『美味しそうな匂いですね』と
笑う彼を見ると、胸のどこかが暖かくなるような気がした。
映画館の中は驚くほど閑散としていた。彼は人混みが苦手だからそれは幸運だと言って
いいのかもしれないが、他人事ながら経営状態を心配してしまうほどの人の入りだった。
ホール自体小ぢんまりとしていたが、私たち以外には2人連れが2組、あとはホームレスらしき
人が1人いただけだった。
それぞれがあちらこちらに座りそれぞれの世界に没頭しているようにも見え、私は彼らの
世界を損なわぬよう、彼を促し右前方のエリアに座った。
前の2列、後ろの4列には誰も座っておらず、この場所なら彼に不快な思いをさせずに済むだろうと
思ってのことだ。
(2)
「前に誰もいないと、何だかボクたちだけの映画館って感じがしますね」
映画はまだ始まっておらず、小さなライトが座席を照らしている。女子高生と思える2人連れは
声高に互いの恋愛話に花を咲かせていたが、彼は周囲を憚るように小声で囁いてきた。
「…ふふ、なんだかワクワクしてきた……」
暗くなる前にホットドッグを食べるよう彼に薦めると、彼は素直に頷き、ガサゴソと袋を弄って
私に包みを一つ渡し、自分の膝にも一つ乗せた。
「いただきます」
礼儀正しい彼らしく私に一礼すると、小さな口をいっぱいに開け、ホットドッグにかぶりついた。
私も自分のものを食べてはいたが、彼の口許から目を離せなくなってしまった。
ホットドッグを食べるのを中断した彼はポテトを摘んで口許に運び、咀嚼し、そして呑み込む。
無意識にだろう、赤い舌をひらめかせて彼は自分の唇を舐める。ライトの加減で彼の柔らかい
唇がオイルに塗れていやらしく光っている様は、私にある種の感情を呼び起こさせた。
私は狼狽した。公衆の面前でその行為に及ぶことを、今までに一度も考えたことがないとは
いえなかったが、彼を映画へと誘ったのはそのような気持ちがあってのことではなかった。
彼の唇から無理矢理視線を引き離したその時――映画館に暗闇が落ちた。
(3)
「ああ…はじまりますね」
彼は再び囁くように私に話しかけると、居住まいを正し、美しい横顔を惜しげも無く曝す。
スクリーンでは引っ越しセンターのCMを映していたが、そのほとんどが頭に入ってはこなかった。
渇いた喉をコーヒーで癒しながらスクリーンの動きを追っていたが、隣りに座る彼が何度か身震い
した気配を感じた。振り向くと彼は自分の腕を摩っていた。
寒いのか問うと、『少しだけ』と控えめに肯定する。
確かに館内は冷房が効いていて、シャツ一枚だけの彼が凍えているのが手に取るように判った。
私はジャケットを脱いで彼の背に掛けた。驚いたように私の顔を凝視する彼の視線をくすぐったく
思いながら、それでも精一杯そっけなく「着ていなさい」と促すと、少し顔をほころばせて彼は
素早く袖を通した。
「緒方さんの匂いがする……」
肩も、袖も、何もかもが彼にブカブカだった。指先が見えないほど長い袖に顔を近づけて、彼は
小さく笑った。煙草を吸わない彼にしてみれば煙草臭かったかもしれない、と私は少し後悔する。
「煙草臭いか?」
「いえ…それは、平気です。けど」
そこまで言って、彼は口を噤んだ。
「………緒方さんにぎゅってしてもらってるみたいな感じがします」
(4)
――その一言が、私が必死に守ってきた理性という壁を壊した。
私は2つの座席の間にあるアームレストを上げて、彼が羽織っているジャケットの裾から手を入れた。
彼がはいているコットンのパンツの前の部分に触れると、驚いた彼は手にしていたウーロン茶の
紙コップを取り落とそうとしたが、辛うじて零すことは避けられた。
「こういうことをするために、上着を着せたわけじゃないんだが…」
前を向いたまま私は彼を宥める。言葉で、そして指の動きで。
「キミがあんまり可愛いことを言うから、歯止めが利かなくなった」
「…――っ」
彼の身体が強ばる。しかし、彼が私を拒むはずがないことを知っているから、私はジャケットの下で
彼の分身を探り、弄った。ジャケットと暗闇でソコの状態がわからないのが余計互いの想像と触感を
敏感にさせたらしく、まだ直接触れない内に彼は息を上げていた。迸りそうになる声を必死に抑えて
いるのが判る。
私は張り詰めている彼を楽にすべく、下ろしにくくなったジッパーを片手で引っ張り下ろした。
下着の上から触れてもそこは生温かく、合わせ目の中から彼を取り出すと一気に周囲の湿度と温度が
高まったような気がした。そしてその生温かさは今も私の手の中に残っている。
(5)
彼の声は声変わりの途中なのか、少し掠れた声を上げた。堪えようとしてそれでも堪え切れずに
喘いでしまうらしい。そういう彼の感極まったような声を誰にも聞かせたくはなかったが、丁度ストー
リーもクライマックスが近付いてきていて、大音響で音楽が鳴り響いていたのは幸いだった。
彼のピンク色のそれが涎を垂らし、指の動きがどんどん滑らかになる。それと同時に彼との摩擦も
少なくなり、余計に彼は敏感に反応していった。
どれくらい彼の分身を愛していたか忘れたが、やがて彼の身体がピクピクと痙攣した。
縋るように私の腕に爪を立てる。
「お、がたさん……っちゃう」
達きなさい、と命じると『…ヤ』と訴え、幼子のように首を振った。
彼の歓喜の声はいつも仔猫を思わせる。消え入りそうで、しかしやけに耳に残る不思議な声音だ。
私はジャケットをはだけると身を屈め、彼の剥き出しの部分に口をつけた。ふるふると震えるそれを
下から舐めあげると、一気に先端を喉の奥まで呑み込んだ。ツルツルした印象のトップを舌でなぞり、
聖水のあふれ出る場所を吸うと、手を置いている大腿がビクと大きく震え、やがて彼は精を吐き出した。
彼が薄い胸を激しく喘がせていると、スクリーンにはエンドロールが流れはじめていた。
私はハンカチで彼の濡れたものを拭い、服の中に仕舞ってジッパーを上げた。
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