シャンプー 1 - 5


(1)
「ボク、髪を切ってみようかな…」
アキラがそんなことを言い出した。
アキラの髪型は肩の上で切りそろえた男にはあるまじきものだったが、それでも十分に似合っていたし、
どういう理由で彼がそう言い出したのか判りかねて、俺は首を傾げた。
「どんな髪型でも似合うと思うけど、何でさアキラたん」
「尚志さんの髪ってとっても男らしいよね。そういうのがカッコイイなって思って…」
俺の髪は所謂スポーツ刈りを中途半端に伸ばしたような髪形だ。アキラとは対極にいる。
洗髪も楽でいい。顔を洗うついでに石鹸で洗っているが、それで全く支障はなかった。
「そうかな」
「うん。とっても…カッコイイ」
頬を染め、アキラはきっぱりとした態度で頷くとそのまま俺に凭れる。
「ボクが尚志さんの髪型にしたらどうだろうか」
「…案外似合うかもしれないよ」
「案外? …やっぱり似合わないと思ってるんだ」
シャワーを浴びても髪を洗わないアキラは、俺の髪に指を滑り込ませて笑った。


(2)
俺の部屋では髪を洗わないアキラだが、ホテルでは普通に洗髪まで済ませて眠りにつく。
アキラがドライヤーで髪を乾かしているのを見て、ようやく俺は理由に思い当たった。
『尚志さん、ドライヤー貸してください』
『ドライヤー? ゴメン、持ってない』
確かに俺はそういう会話をアキラとしたことがある。
アキラは乾ききらない髪のままで俺の腕の中で眠り、次の日にもう一度風呂に入って出て行った。
そうだ、確かにそれからは髪を俺の家で洗わなくなったのだ。
俺の胸元に顔を埋めて眠るアキラの綺麗な顔を見つめ、自分の甲斐性というものと向かい合い、
俺はその夜、ほとんど眠ることができなかった。
ホテルを出た俺はアキラを送ると、そのままの足で電気屋へ向かった。
たったの2時間のバイト料程度を惜しんでアキラに辛い思いをさせていたのかと思うと、俺は今までの
俺を殴りつけたいような気持ちになる。
ついでにラックスのシャンプーアンドコンディショナーを買い、俺はいそいそとアパートに帰った。


(3)
その2日後は雨だった。
アキラは濡れた空気をまとって俺の部屋にいた。
可哀相にアキラは傘を持たずに俺を訪ね、俺のバイトが終わるまで外でドアに凭れて待っていたのだ。
鍵を渡しているのに決して一人では中に入らないアキラが愛しくて、俺はアキラを抱きしめて暖め、
2つのコンロで湯を沸かし、水でぬるめて風呂を作った。沸かすよりもよほどこの方が早かった。
「アキラたん、体が冷たくなってる。…風呂に入っておいで」
「はい」
アキラは俺の着替えを素直に受け取り、背中を向ける。細い、きわめてまっすぐな背中だった。
「それから、コレもね」
俺は箱から取り出したドライヤーを手渡す。
「シャンプーも風呂場に置いてあるから使って」
アキラは少し驚いたようで、青みがかった綺麗な目を見張る。
「よく判らなかったから適当に買ったけど、駄目だったら言ってくれよ」
バイトの女の子が話していたのを覚えていたから、リンスインシャンプーだけは買わなかった。
そういう区別しかできなかったが、アキラは俺に歩み寄ると、俺の胸にコツンと額をぶつけてきた。甘えるように。
「――駄目なものなんてないです」


(4)
「尚志さんの髪と同じ匂いになれるなんて、うれしい」
アキラが笑う。正直言ってシャンプーの匂いは甘ったるくて強くて、俺は少し困ってしまったのだが、
アキラが本当に嬉しそうに笑うから、俺も嬉しくなった。
そして俺は使いなれないドライヤーのコードに四苦八苦しながら、アキラの髪を乾かしている。
「アキラたん。…俺の家にドライヤーがないから、髪を切ろうと思った? もしかして」
「乾かすのがラクだろうな、とは思いました。それに…もうすぐ夏だし」
髪を触られるのが気持ちいいのか、鏡に映るアキラはうっとりと目を閉じてオレの手の動きに身を委ねていた。
「ベタベタのドロドロになっても、簡単に洗えるなあって」
「言ってくれたら用意したのに」
「わざわざ用意させようとは思ってなかったです」
しかし、アキラは自分で持ってくることを選択肢にいれてもいなかったのだろう。
アキラがドライヤー一式を持ってきた場合、自分の不甲斐なさに気がついて俺はきっと気分を害するはずだった。
「でも、尚志さんの髪型に憧れてるのは本当。いつか…そう、いつかボクもやってみたい」
黒いツヤのある髪は、乾かしてやると指の隙間から零れてキラキラと光を放ちだした。
「俺はアキラたんがどんな髪型でも似合うと思うし、好きだけど」
俺はアキラの後ろ髪を掻きあげる。露になった細い首筋に噛み付くと、アキラは眉根を寄せて細い声を上げた。


(5)
「アキラのこの細くて色っぽい首を他のヤツに見せるのだけは我慢できねえよ」
「た…かしさん……」
日に焼けることのなかった箇所も噛み付いて、歯を立てて、舌でなぞる。
その動きを髪の生え際から下へ、下から生え際へと満遍なく繰り返す。15回までは数えたが、それ以降は
カウント不可能になった。
アキラが身体を捩って俺の身体に両腕を絡ませてきたからだ。
「尚志さんとボクが同じ匂いだと思うと…もう我慢できない…」
アキラは切羽詰ったような切ない顔で俺を見上げる。その中途半端に火をつけられたような淫らで綺麗な
顔を見て、俺は箍が外れる音を聞いた。
「今日は新しいことをしようか」
顎を掬い唇を吸うと、アキラは夢中で俺に応え始めた。ミルクを舐める子猫のような所作で俺の唇をぺろぺろ舐め、
少し口を開くと大胆に進入して俺の口の中を確かめて出て行った。
「あたらしいこと…?」
俺の大きめのTシャツを着たアキラは、胸元も露にして俺に縋りつく。
「そう。今日はたくさん顔にかけてあげるよ。…髪が汚れても洗えばいいからさ」
アキラは顔にかけられるところを想像したのか首筋まで赤く染め、そして潤んだ目で俺を見上げると頷いた。

その日、アキラは髪も身体も俺の匂いにまみれて幸せそうに眠りについた。
いつもいつもご馳走様です。



TOPページ先頭 表示数を保持:

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!