ハピバ!! 1 - 5


(1)
「なァ、和谷。今日っておまえの誕生日だよな?」
ヒカルは照れくさそうに聞く。
「あぁ、そうだけど。なんかくれんのか?」
和谷はワクワクした。ヒカルが自分の誕生日を覚えていて、しかも誕生日プレゼントまで用意しているなんて、思ってもみなかったからだ。
「それじゃあさ、目、つぶってくんない?」
そう言われ、和谷はドキドキしながら目をつぶる。いったい何を貰えるのだろうか。
そうやって待ち構えていると、ヒカルの手が和谷の首に伸びてきて、引き寄せられた。
そしてなにかフワッと柔らかくしっとりとした感触が唇にあたった。
和谷は動揺した。しかしこの感触をもう少し味わいたい気もする。
だがヒカルが自分にキスをプレゼントというのが考えられなくて、そっと目を開けてみた。
目を開けると、目を閉じたヒカルの超どアップの顔があった。よく見ると睫毛が長くて、肌がきれいで、まるで少女のようだった。
長いキスの後、ヒカルはゆっくりと和谷から離れ、恥ずかしそうに見上げる。
「オレのプレゼント、受け取ってくれよな」
そう言うと、ヒカルは服を脱ぎ始めた。
和谷は目の前のことが信じられなくて、夢なのかもしれないと頬をつねろうとした。しかし夢でもいいからこのままずっとヒカルといたい。
そう思うと、和谷は頬をつねるのをやめて、ヒカルに飛びついた。
「進藤ーっ!!」


(2)
ドカンッゴンッ!!とけたたましい音があたりに響く。
「アレ?」
和谷はズキズキと痛む頭をさすりながら、起き上がった。
「なんだ、いつのまにか眠っちまったのか」
部屋を見て、自分が碁をならべている間につい眠ってしまったことがわかった。
和谷は窓の外を見る。日が暮れるにはまだ早い時間帯なのに、もう薄暗くなっていた。そう言えば今日は雨が降るんだっけ。
窓をガラッと開けると蝉の音とムッとする熱気が部屋へ入ってきた。
和谷は部屋を振り返り、なんだか寂しくなった。
一人暮らしを始めたはいいものの、やっぱり誕生日に一人は辛い。
和谷は家族や友人らのことを思い浮かべた。ふとヒカルの顔が頭をよぎり、和谷は赤面した。
夢の中とはいえ、間近で見たヒカルの顔や唇の感触がリアルに残っていて、動悸が激しくなった。
和谷は情けなくなってはぁ〜とため息つくとその場に座りこんだ。
「オレ、一体なにやってんだろ・・・」
そこへ来客を知らせる呼び鈴が鳴った。和谷はやる気のなさそうに玄関へ向かう。
「ハイハイ、どなたですか」
そう言ってドアを開けると、ヒカルが立っていた。


(3)
「誕生日、おめでとー!!」
ヒカルはパンッとクラッカーを和谷に向けて鳴らした。
紙吹雪やらカラーテープやらが和谷の頭上に降り注ぐ。
和谷はキョトンとしてその場に立ち尽くした。
「んじゃ、お邪魔するぜー」
ヒカルは和谷を押しのけてズカズカとあがった。それに続いて伊角や菜瀬、本田らも部屋にあがった。
和谷は一人呆然としていた。
「おい、和谷!なにやってんだよ」
ヒカルはそう言って、和谷を引っ張る。
「今日はおまえが主役だろ? ボケッとすんなよ。それともうれしすぎて感動中か?」
ヒカルは意地悪そうに笑った。
和谷は隣にいるヒカルを見入った。さっきの夢と同じヒカルが目の前にいる。そして自分の誕生日を祝おうとしてくれる。和谷はうれしくて、ヒカルを抱きしめた。
「ぎょええぇーっ!! 何すんだよ、和谷!!」
ヒカルはジタバタと暴れる。しかし和谷は夢じゃないんだと感動していた。
「和谷、感動したのはわかったから、進藤を放してやれ」
伊角が仲裁に入る。和谷はそこでやっと周りにも人がいたことに気づき、ヒカルを放した。
開放されたヒカルはゲホゲホと少しむせながら、和谷を睨みバーカという。そこには先ほどの色っぽさはなかったが、ヒカルがいてくれるだけでよかった。
「わ・・・わりぃ。えっと、皆なんで?」
「伊角さんが企画したのよ。今日は和谷の誕生日だから、皆でお祝いしようって」
菜瀬が持ってきた料理を手際よく並べながら言った。
「突然行ったほうがビックリして喜ぶかと思ったんだけど、迷惑だったか?」
伊角は少しすまなそうに和谷の顔色を伺った。
「ううん、マジで・・・最高に感激した!!」
その言葉に皆成功したと拍手をした。


(4)
「それでは、これから和谷の誕生会を始めたいと思います」
伊角のかけ声に皆、乾杯をしようとする。
そこへヒカルが口をはさんだ。
「で、和谷はいくつになったんだ?」
「え?」っと言って皆ヒカルのほうを見る。
「進藤、おまえ和谷の年、知らないのか?」
「っていうか、今日が誕生日ってのも知らなかったし」
和谷は持っていたコップを置くと黙って立ち上がった。
「和谷、えっと進藤も悪気があってそんなこと言ったんじゃないからさ」
伊角はさりげなくフォローする。
しかし和谷は聞く耳を持たずにヒカルのそばへ行くと、ギュッと抱きしめた。
「和谷!テメェ何すんだよ!!」
ヒカルはもがき暴れた。しかしそれでも和谷はヒカルを全力で抱きしめた。
周りがそれをとめようとあたふたしている中、和谷は心の中で、いつかあの夢を実現してみせると、絶対夢オチにはしないと、かたく誓った。


(5)
それから数日間、和谷はなぜか原因不明の下痢に悩まされた。
食中毒か何か変なものでも食べたのかと思い出してみたが、わからない。
ただ気になることが一つあった。
誕生日の翌日に偶然会ったアキラからおめでとうと、プチケーキのセットをもらったのだ。
一応ありがたく受けとったのだが、アキラの顔はとても祝ってくれるような顔ではなかった。
それを食べた後から腹の具合が急に悪くなった。
しかし和谷にはアキラがそんなことをするなど全く思いもつかなかったので、ただただ早くこの腹痛から開放されることを願っていた。
「はぁ〜、最悪だ…」
和谷の手には今日も正露丸が握られている。

            
                                <了>



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