夏の陽射し 1 - 5
(1)
熱い陽射しがヒカルの肌を焼く。
プールの水面がきらきらと輝き、幻想的に見えた。
夏休みのプール開放日は、学年もクラスも関係ないので見知らぬ生徒がけっこういる。
授業と違って自由にビート板やボールで遊んだり出来るし、市民プールと違ってお金が
かからないので、集まりがいいのだ。
みんな楽しそうに声をあげて笑っている。
だがヒカルはぼんやりとすみのほうで、足を水に浸しているだけだった。
ヒカルがここに来たのは何となくだった。
強いて言えば、今日があまりにも暑かったからだろうか。
「進藤?」
不意に名を呼ばれてヒカルは振り返った。
「三谷……」
三年生にとって夏は大切な時期である。だからヒカル以外の三年生はいなかった。
クラスでも浮いているヒカルはそれがかえってありがたかった。
なのにここで同じ学年の者に会うとは。しかも三谷。
三谷はヒカルと同じ学校指定の、紺色で前に紐がついたスクール水着をはいていた。
周りは騒がしいのに、二人の間だけは静かで張り詰めていた。
「……よぉ」
先に口を開いたのはヒカルだった。だが三谷は何も言わずにヒカルを見たままだ。
ヒカルは気まずくて、その場から離れようと立ち上がった。
しかし足が濡れていたために派手にすべってしまった。
どぶんっ、と冷たい水のなかに背中から落ちた。
いきなりのことでヒカルは手足をばたつかせることしか出来ない。
水のなかは光が乱舞していた。どちらが上かわからない。
鼻や口の中に水が大量に流れ込んできた。ヒカルの周りに無数の泡が立つ。
パニック状態になりかけたその時、いきなり強い力で腕を引かれた。
空気が一気に入ってくる。苦しくてヒカルは咳き込んだ。
そんなヒカルの頭上に怒鳴り声が降ってくる。
「おまえバッカじゃねえの! こんなとこで溺れんなよ!」
声の主は三谷であった。
(2)
「ごめ……サンキュ、三谷……」
ヒカルは肩で息をしながらも言ったが、三谷は目をそらした。
しばらくヒカルは三谷の肩につかまっていた。
しかし落ち着いてくるときまりの悪さを感じた。腕をはなす。
「本当にごめん」
「悪いと思ってんのかよ」
三谷は相変わらずしかめっ面をしたままだった。
「あたりまえだろ」
「じゃあっ」
いきなり腕を強くつかまれた。指先が肌に食い込む。
「囲碁部をやめたことは?」
「三谷……」
思いがけない言葉にヒカルは口を開いたままかたまった。
三谷は顔を歪ませ、笑った。
「どうせ俺じゃあおまえの相手なんてできないよ。ヘボで悪かったな」
「違う。オレ、そんなこと……」
思ってない、というその先は発せられることはなかった。
三谷がかみつくように唇をふさいできたからだ。
同時に三谷の股間がヒカルのももに当たった。それはすっかり形をもっていた。
ヒカルは仰天した。いったい何なのだ。渾身の力を込めて三谷を突き飛ばす。
「どういうつもりだよ!」
ヒカルは叫んだ。だが三谷は恐ろしく抑揚のない声で言った。
「それはこっちが言いたいぜ。人のこと散々かき乱しておいて」
乱暴に三谷の手が水着の中に入り、ヒカルのそれをつかんだ。
「っ! あ、何するんだよ!」
三谷を蹴飛ばそうと足をばたつかせるが、水の抵抗で思うようにいかない。
「おまえ、すげェむかつくんだよ」
言葉が突き刺さる。だがその痛みを感じるよりも、三谷がおのれ自身に与える刺激のほう
にヒカルの意識はさらわれた。
水の中なので手がよくすべる。どんどん昂ぶってくる。
のどの奥からうめき声を漏らし、ヒカルはおのれの精を水の中に解放してしまった。
(3)
足に力が入らず、ヒカルは三谷に寄りかかった。
そんなヒカルの耳に嘲るような声が聞こえてきた。
「みっともねえなあ、こんなところで」
手のひらにとろりとしたものをすくいとり、三谷は笑った。
ヒカルは悔しくて三谷をにらんだ。
「そういうおまえこそ、どうなんだよっ」
先ほどと変わらず三谷のそれは熱をもっていた。
三谷は無言のままヒカルを見つめている。
それは空から獲物を狙う、猛禽類の眼光と似ていた。
このままだと捕らえられてしまう。本能がそう告げる。
ヒカルは無意識のうちに水から上がった。プールサイドを駆ける。
教師の叱る声が聞こえたが気にしてなどいられなかった。
更衣室に飛び込み、鍵をかける。そしてようやく息をつくことができた。
シャワー室に入る。
ひねると冷たい水が勢いよく出てきた。それを顔で受け止める。
身体が火照っている。
あの熱い陽射しのせいだ。
三谷の目が脳裏に浮かんだ。あの手の感触。
どくん、と血液が逆巻いた気がした。
「……っあ……」
自身が勃ち上がり、水着がきついと訴えてきた。
見下ろすと隙間から見える。つばをのみ、そっと手を這わした。
壁にもたれ、指でいじる。
熱いお湯が降りそそいでくる。ヒカルはずるずると座り込んでしまった。
目をかたく閉じ、快楽を追う。
さっき一度出したにもかかわらず、簡単に絶頂を迎えることが出来た。
陶酔した表情でまぶたを開いたヒカルは悲鳴をあげそうになった。
「一人でずいぶんと、お楽しみのようじゃないか」
「三谷……何でいるんだよ……」
声がかすれてしまう。余韻がまだ消えない身体を叱咤して、ヒカルは立ち上がった。
三谷が腕を軽くあげた。その手には“更衣室”という板のついた鍵があった。
(4)
楽しそうに三谷は指で鍵を振りまわす。
ちゃりちゃりと小気味良い音がした。
「俺が今日の生徒の代表なんだよ。だから鍵をあずかってんだよなあ」
ゆっくりと近付いてくる。逃げる場所がない。追いつめられた小動物のようだ。
「俺も一回プールん中で出してきたから、おあいこだな。ああ、でもおまえはここでも
したんだよなあ?」
ヒカルはかっと赤くなった。そんなヒカルを三谷は舐めるように見る。
視線で犯されているような気がした。
「俺もここでしようかな」
「勝手にすればいいだろ。オレは知らねェよ」
三谷の脇を通り抜けようとしたがかなわなかった。
思い切り壁に押さえつけられた。
痛みで顔をしかめているあいだに、膝までスクール水着を一気に下ろされた。
必死でもがくと、三谷は舌打ちしてヒカルの身体を反転させた。
腰を引き寄せられる。
熱くて硬いものが、ヒカルの後孔をさぐるように当てられた。
侵入しようと二、三度軽く突いてきた。だがそこは閉じられていて無理だった。
「三谷! やめろよ! オレたち、友達だろう!?」
すがるようにヒカルは三谷を振り返った。視線がかちあう。
三谷の手がゆるんだように思えた。しかし。
「くっ、ああ!」
強引に割り開いて、三谷の男ががむしゃらに入ってきた。
「俺は、友達だなんて、思ったことなんか、ないぜ。俺は、ずっと……」
息ができない。ヒカルは目を見開いたまま床を見つめた。
身体が味わったことのない痛みのために強張る。
「ぐぅっ! いぁっ……」
ヒカルのそこは強く反発したが、力づくで根元までいれようとする三谷のそれをとめる
ことはできなかった。
「血が出てる。切れたんだな」
ヒカルの肛門の表面をさすり、三谷はつぶやいた。
静かな声とは反対に、ヒカルのなかの三谷自身は熱を増していった。
(5)
ヒカルは気絶するかと思った。それくらいの痛みを感じた。
三谷が荒々しい動作でヒカルのふとももを広げ、抵抗など意に介さず動き出したのだ。
貫かれたそこから頭の先まで、電流のような衝撃が走りぬけた。
苦痛の声がヒカルの口から漏れるが、三谷はかまわずに動いている。
「……やめ……ろっ」
あまりの痛みのために、大きな声を出せない。身体がこのまま張り裂けそうだ。
救いを求めるようにヒカルは腕を上にのばした。手に触れたものをつかむ。
すると水が身体に当たった。その粒さえもが痛みを与える。
シャワーのコックだと気付き、閉めようとしたが手はすべって床に落ちた。
「はぁ、進藤……っ、あ……」
三谷の興奮したような声が遠くから聞こえる。
尻を何度も叩き、三谷は容赦なくヒカルを苛みつづける。
「ど……して、だよ……ど、してこんな……」
「どうして、だって?」
小さな声は三谷の耳にも届いたようだ。
三谷の表情は見えないが、笑っているだろうとヒカルは思った。
「俺はずっとおまえが大嫌いだったんだよ!」
その声とともに、ヒカルの身体の奥に熱いものが溶け込んでいった。
気付いたら自分はだらしなく横たわっていた。
三谷の姿はなかった。
シャワーは流れ続けており、ヒカルの身体を洗い流していく。
起き上がる気力などなかったが、いつまでもこうしてはいられないので、這いずり出た。
全身が痛い。服をのろのろと身に着ける。誰も来ないのがせめてもの救いだった。
外に出ると、プールからうるさいくらいのはしゃぎ声が聞こえた。
みんなぎりぎりまで居残るつもりなのだろう。
ヒカルは顔を上げた。太陽がまぶしい。
「なんで、こんなことになったんだよ……」
声は熱い大気に吸い込まれていった。
陽射しは弱まることなくヒカルを射抜きつづけた。
――――終わり――――
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