誕生歌はジャイアン・リサイタルで(仮題) 1 - 5


(1)
突然祖父から呼び出しの電話があった。用件は言わずただ「いいから来い」と言うだけである。
だが、ヒカルには用件の見当がついていた。今日はヒカルの誕生日なのだった。
(どうせ、じーちゃんとばーちゃんでいきなりプレゼントを渡して、驚かそうって魂胆なんだろ)
その時は素直に驚いたフリをしてやろう、と決める。嬉しさとくすぐったさで、笑いがこみ上げてきた。

到着した祖父の家では、祖父母の他に幼馴染みの藤崎あかりが待っていた。
「ヒカル、誕生日おめでとう!」
そう言って差し出されたのは、手作りのケーキだ。小さな砂糖菓子の碁石まで乗っている。
「今日はあかりちゃんに頼んで来てもらって、一緒にケーキを作ったんじゃ、どうだ?驚いただろ」
「そんなこと言って。本当はほとんどあかりちゃんだけで作ったのよ」
胸を張って言う祖父に、祖母が笑ってからかう。あかりははにかんだ笑顔を見せた。
「そんな・・・あ、でもヒカルのおじいちゃんが碁石を作ってくれたの、すごいでしょ?」
「ハハハ。しかしヒカル、あかりちゃんは料理上手だし、良いお嫁さんになるな。わしゃ嬉しいわい」
「も、もう!何言ってるんですかあ!そんな…ねえ?ヒカルも何か言ってよー」
祖父の冗談とも本気ともつかない言葉に、あかりは真っ赤になってしまう。
それまで黙っていたヒカルは、3人とケーキを交互に見比べると、照れたように俯きながら口を開いた。
「じーちゃん、ばーちゃん、あかり…どうもありがと、オレ…マジで嬉しいよ」
心から感謝して笑うヒカルに、3人とも安堵して嬉しそうに微笑んだ。


(2)
と、突然あかりが慌てたように口を開いた。
「あっ…いっけない!ケーキのロウソク買うの忘れちゃった」
「ロウソク?そんなのは仏壇のロウソクで代用すればいいじゃろ」
「あ、そうですね!ヒカルのおじいちゃん、ナイスアイディアだわ!」
そう言って仏壇用ロウソクを立て始めるあかりと祖父。ヒカルは呆気にとられるばかり。
「じいちゃん…?あかり…?」

「ヒカルのおじいちゃん、それでもロウソクが足りないわ。ヒカルは今日で16歳なのに…」
「ふむ…じゃあ残りは線香で間に合わせておこう」
線香に火をつけて立て始める祖父。

「ひーっ!じーちゃん!何だか陰気なケーキなんだけどっ!!」
「そうだな…碁石も白と黒でお葬式みたいだし、不気味だな」
「じーちゃん、自分でやっといてそりゃないだろ!」
そこに何やら大きな包みを抱えて現れた祖母。ヒカルは何やら嫌な予感がしていた。
「ヒカルが夏に来た時に置いていった花火の残りがありましたよ、これで飾り付けすれば、華やかになるんじゃないかしら!?」
「わあっ!名案だわ!ね、ヒカル花火好きだったよね?そうしましょ!」
嬉々として提案する祖母と、嬉しそうに花火をケーキに立て始めるあかり。花火好きにも時と場合がある。
「ちょっ……!!!??」
点火


あぼーん


「ごめんねーヒカル…ケーキはまた作りなおすから…」
「……いいよ…もう。それよりオレ、もう行かなくちゃ。和谷達と約束があるんだ!」
ヒカルの長い1日は、はじまったばかりだった。


(3)
ヒカルは大慌てで走った。和谷と駅前で待ち合わせをしていたが、もう10分ほど遅れていた。
「進藤!おせーぞ!何分待たせる気だよー」
「ご、ごめんー…ちょっといろいろあってさ」
息を整えながら謝るヒカルに、和谷は「しょーがねーな」と笑って許してくれた。
まさか祖父母とあかりのバカ騒ぎで遅れたとは言えなかった。
「あれ?伊角さんは…一緒の約束だったよね」
「ああ、伊角さんは後から来るんだ。それより行こうぜ!。」
歩き出した和谷を慌てて追いかけながら、ヒカルは「どこに行くんだよ?」と尋ねる。
「今日はお前の誕生日だろ?マック位なら奢ってやるぜ」
和谷の申し出に、ヒカルは笑って頷いた。


(4)
和谷はマクドナルドになにやらペットボトルを持ち込んでいた。
ヒカルに「和谷、それなんなんだ?」と聞かれた途端、和谷は
ペットボトルの蓋を開け、中の液体をマクドナルドの客席にまき散らし始めた。

「おまえらみんな死ぬんだよ!何が誕生日だ!アーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」
「やめろ!和谷!」「キャア!なんてことをするのよ!」

ヒカルや周りの客が止めるのも気にしないでその液体にライターの火を
近づける和谷…。
その時、自動ドアを大きな音をたてて抉じ開け、現れた人物がいた。
消防士姿の新初段、伊角さんだった。
「和谷、そこまでだ」


(続く)

ヒカル 「続くのかよっ!!!!!???」


(5)
その時、凛々しい音 と共に店に乱入する男が一人いた。そう、彼の名は塔矢アキラ三段。
「やめるんだ!そして、進藤以外、みんな氏ね!!!」
進藤ヒカルの手をひっぱり、店の外へ待避させた後、アキラは火炎瓶を店内に投げ込んだのであった。

連れ出されたヒカルがやっと我を取り戻したのは、アキラに引っ張られ彼の父親の経営する
碁会所の前まで来た時の事だった。
「はっ、離せよ!何だよいきなり!お前っていっつも突然現われやがって、心臓に悪…ムググッ!!」
食って掛かるヒカルを羽交い締めにし、アキラは後ろからヒカルの口と鼻に布状のものを宛がう。
異常な臭気のする布を嗅がされ、やがてヒカルは抵抗どころか何も考えられなくなって行く。
「ムグ…ングゥ……ううう…ん…」
「ハッピーバースディ、進藤…」
薄れゆく意識の中、アキラのその呟きと満面の微笑みがヒカルの脳裏に焼きついた。



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