研究会 1 - 5
(1)
「進藤!」
棋院のエレベーターを降りた時後ろから呼び止められた。
「伊角さん!」
振り向くと、今年入段したばかりの伊角が手をあげて近づいてくる。
「何?伊角さんも今日手合いだったんだ」
ヒカルは親しげな笑顔をいっぱいにして伊角のもとに小走りに駆け寄った。
院生の頃からみんなのお兄さん的存在だった伊角は、プロになった今でも
何かと世話になっていて、本当の兄のように信頼している人物だった。
「ああ、うん。ところで進藤、今度の日曜暇かな?」
伊角は少しためらいがちにヒカルの予定を尋ねた。
「え、うん、特に予定はないけど」
「実はさ、今年の入段者と去年の入段者で集まって研究会やろうって
ことになったんだ。進藤ももちろん来るだろ?」
「へー。でも若手の研究会なら冴木さんたちともうやってるじゃん。
あれとは別なの?」
ヒカルが訝しげに首を傾げると、伊角はあわてて
「ああ、今度のはまた違う研究会なんだよ。ちょっと趣旨が違うんだ」と言った。
「ふーん。まぁいいや。どうせ暇だし」
ヒカルのその言葉を聞いて、伊角はほっとしたように笑った。
「よかった。進藤がいないと始まらないからな…」
「え?」
「いやっ、その…、場所は和谷の家だから!日曜の10時にな!」
と言うと伊角は逃げるようにあわててその場を立ち去った。
後に残されたヒカルはさらに首を傾げながら
「変な伊角さん…」とつぶやいた。
(2)
次の日曜日、ヒカルは少し寝坊をしてしまった。
「やべ〜、みんなもう集まってるかな」
あわてて和谷のアパートにたどり着いたヒカルはドアのチャイムを鳴らす。
「ほ〜い」中から家主の声が聞えると、ガチャとドアが開いた。
「ごめん、もうみんな来てる?」
「おせーぞ、進藤。みんな待ちくたびれてるぜ」
部屋をのぞくと伊角、本田、越智、そして門脇がいた。
「ごめん、寝坊しちゃった。ははは」
誤魔化すように笑いながら入ってくるヒカルに一瞬皆の視線が集まる。
しかし、誰もそれを咎めるでもなく、それぞれ明後日の方向に視線を泳がせながら、
落着かない様子で「遅かったな」とか言っている。
なんだか変な雰囲気だ。
「あれ?…おい、和谷ぁー!オマエ布団敷きっぱなしじゃねーか」
ただでさえ狭い和谷の部屋には、敷布団が敷かれたままだった。
それを取り囲むようにみんなが座っているのである。
どおりで変な雰囲気なわけだ。
「それに碁盤は?これじゃ研究会なんてできねぇじゃん」
遅れて来たのを忘れてヒカルはぷんぷん怒り出した。
「いや、今日はこれでいいんだ…」
伊角があいまいな表情で言った。
「なんで?だって研究会するんだろ?」
ヒカルはきょとんとした顔をして伊角の横に腰掛けようとした。
「それは…つまりこういうことだ―――」
そう言うと、伊角はヒカルの手をおもむろに掴み、
ヒカルの身体をぐっと引き寄せた。
(3)
「!」
あまりに突然なことにヒカルは何も抵抗できず、あっと思う間に
伊角の手の中に引き寄せられた。
そしてヒカルが現状を把握するよりも早く、伊角はその唇で
ヒカルの唇をちゅっと吸った。
「―――こういうことだよ」
伊角の目は優しかったが真剣だった。
「な――」
あまりなことにヒカルはただ呆然として口をぱくぱくさせるばかり。
そのままゆっくりと布団の上に押し倒されて、やっと己が何をされたのかを
理解したヒカルは真っ赤になって抵抗し始めた。
「やっ…何するんだよ、やめろよっ…伊角さんっ」
イヤイヤともがくヒカルに伊角はさらにくちづける。
「ふっ……ん…」
逃れようとヒカルは懸命に手足をバタつかせたが、
伊角と自分ではいかんせん体格の差がありすぎる。
肩を押さえつけられ、足でしっかりと下半身を固定されてしまって
身動きが取れない。
長いくちづけに息継ぎすることもままならず、伊角の肩をばんばんと叩いて
苦しいと意志表示をすると、やっとその様子に気づいたのか、伊角はヒカルを
解放した。
「進藤…」
どこかうっとりとした目でヒカルを見つめてくる。
ヒカルただ苦しくてはぁはぁ息を弾ませていたが、少し落ち着くと涙目で伊角を
にらみ返す。
「いきなり何するんだよ!ふざけてるんならオレ帰る!」
「ふざけてなんかないよ」
すぐさま伊角は真剣な表情に戻る。
「俺は…俺は進藤のこと、ずっと前からこうしたいと思ってた」
伊角の顔は真剣そのもので、嘘を言ってるようには見えない。
「な…なんだよ、それ…」
その言わんとするところを理解したヒカルは、顔を熟れたトマトのように真っ赤にして
上ずった声を漏らした。
「伊角さんだけじゃない」
後ろから和谷の声がした。
「ここにいる俺たちみんな、進藤のこと抱いてみたいと思ってたんだ」
(4)
「だ…抱くって」
その直接的な表現に、更にヒカルの顔が赤くなる。
もう何がなんだかわからない。
「進藤の唇、やわらかいよね…」
そうつぶやきながら、伊角がまたくちづけを落す。
それは口から頬へ、頬から首筋へと移動していった。
「あ…」
項のあたりを吸われた時、ヒカルは思わず声を漏らしてしまった。
「進藤、ここ弱いんだ」
嬉しそうに伊角が微笑んだ。
「な…」
己が上げてしまった声に猛烈に恥ずかしくなったヒカルは
渾身の力を込めて伊角の下から這い出そうとした。
「おっと、ダメだよ進藤」
抜け出しかけた身体を誰かに後ろから羽交い絞めにされ抱き止められた。
「今日は研究会なんだ。進藤。オマエのね」
そう言って越智はメガネを光らせた。
「研究って!何だよそれ!」
「例えば…」
越智の手がヒカルの腰の辺りに伸びる。
そしてぱっとヒカルのシャツをたくし上げて、その中に手を進入させる。
「…っ!!」
手は的確に胸のふたつの小さな突起に辿り着き、軽く撫で上げた。
「あっ…ん」
ヒカルの口から思いもよらないほど高い声が漏れた。
「こうすると、進藤がどんな反応を示すか…とかね。
そうか、ここは相当気持ちいいらしいね」
そう言うと越智はニヤリと口元を綻ばせた。
(5)
越智の両手がヒカルのシャツを胸までたくし上げたため、
ヒカルの白い上半身が露わになる。
白く木目細かい肌の左右には、ほのかに色づく小さな果実がふたつ。
その可憐な肢体にその場にいる全員が息を飲む。
くちづけと軽い愛撫に感じてしまったのか、その突起はやや形を顕にしていた。
越智は撫で回すようにヒカルの胸に両手を這わせ、まるで女の子にするように
揉みしだき、突起をくりくりと摘まんだりした。
その度にヒカルの口から艶のある声が微かに漏れる。
ごくり、と誰かの唾を飲む音が部屋に響いた。
ヒカルは最初のうちは激しく抵抗しようとしていたが、
下半身はそのまま伊角にがっちりと固定されていて動けない上に、
なにより敏感な部分への愛撫に身体の力が一気に抜けてしまい、
もがこうとする手は空を切るばかりだった。
「あ…ぁん…は…」
薄く色づくつややかな唇はわずかに開いて嬌声を紡ぎ、
潤んだ目元はほのかに赤く染まる。
その姿は見るものを欲情させずにはおかなかった。
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