暗闇 1 - 5
(1)
棋院の帰り。進藤ヒカルは覗きこんだ靴の上に置かれたメモをボンヤリと見ていた。
『進藤、二人で新しい棋譜を作ってみないか。今夜12時、ここで』
「お疲れ様」
塔矢がすれ違いさま声をかけてきた。
「お、おうっおつかれ塔矢!」
塔矢アキラは口元に静かな微笑みを浮かべ、漆黒の髪で風を切り、ヒカルの頬にかすかに当て通りすぎた。
16になった二人。今ではもう、ライバルと言っても昔のように碁盤の上以外で激しくぶつかり合う事はない。
だからと言って和谷や伊角さんのような楽しい囲碁仲間でもない、塔矢の存在。真っ直ぐに前を見て歩く塔矢の背中は、昔とちっとも変わってはいない。
「これ・・塔矢じゃないのかなぁ」
改めてメモを見る。
「今夜12時、かぁ・・」
タクシーで近くに降ろしてもらう。こんな夜更けに棋院を訪れるのは2度目だ。大事な物をなくしたと気付いたあの夜。たくさん泣いた。バカみたいに泣いた。
今でもやはり、思い出すと胸は痛む。痛む事にホッとする。
靴を脱ぎ、真っ暗の闇の中、かすかに碁を打つ音がする。
「塔矢・・か?えっと、あの・・」
ドアを静かに開ける。碁を打つ音が止まる。黒の視界、目を凝らしながら二、三歩、前に進む。
「え?」
不意に後ろから抱き締められる。「うわっ」慌てて振りほどこうとして暴れるヒカルを締め上げるように抱く腕。
「くるしっ・・」
その強い手がヒカルの喉に回される。
『殺される・・!』
恐怖で震えるヒカルを見て、闇が小さく楽しげに笑った気がした。
ヒカルの喉に暖かく湿った唇が触れる。強く吸われ、痛い。小さな声を上げる。
初めての感覚で、何をされているかわからず動揺していると、突然、鼻をつままれ、思わず口を開けた途端、
強い匂いと共に、喉の奥に生温かい物を口内に押し込められた。
吐き気と共に眩暈がヒカルを襲った。自分の頭を押さえつける手を力一杯振りほどき、くしゃくしゃの髪でヒカルはどなった。
「塔矢!!塔矢なんだろ?なに・・すんだよっ・・!」
ケホッ、と咳きこみ、机にもたれかかろうとするヒカルに、再び闇がのしかかる。
(2)
「!!」
ヒカルが叫ぶ間もなく、見えない手は力強くヒカルのジーパンをトランクスごと床下まで下げ、
先が薄く色付くヒカルの竿をギュッと握りこんだ。
「・・・っ!!」
抵抗しようとするヒカルの身体を卓上に押し上げ、そのまま尻をさらに持ち上げる。
ヒカルの履いていたスリッパが頭上から落ちる。尻に生暖かいぬめりを感じ、
ヒカルは殺されるよりももっと強い恐怖を感じた。
何を自分がされようとしているのかが、今、わかった。
また、闇が笑った気がした。熱いモノが信じられない所に宛てがわれる。そして。
「あ、あっっつ・・・!!」
切り裂く痛み。暗闇が一気に赤く染まる。
ああ、重い、重い、重くて、痛い物が、自分に、自分の中に、入ってる。入ったり、出ようとしたり。変な音もする。怖い、怖い・・!
「やだ・・!やめてくれ、やめてくれ・・っ」
燃える様に熱い。痛い。神様、佐為。佐為!!
ビュッと体内で音を感じて、ヒカルは身震いした。
ゆっくりと、重い物が離れていく。
「はぁっ・・!」
息を吐くと涙がバタバタとこぼれた。
犯された、オレ、やられたんだ・・佐為・・!
(3)
ふいに闇がヒカルの頬を撫でた。
「!?」
男の手だ、熱い。
男の両手がそのままゆっくりとヒカルの胸部へと滑り、
Tシャツの上から胸部の形に沿う様に指をすべらせる。
その手がヒカルの胸の二つの窪地を見つけ、両の親指で押すように潰し始めた。
「・・・?」
男の行動、奇妙な感覚にヒカルは恐ろしくて身を堅くした。
Tシャツの上から男は口をつけ舐めあげ、熱い唾液で片方の乳首の部分をベトベトに濡らした。
Tシャツから透けたヒカルの立ちあがった小さな小豆色の乳首をギュッとつまむと、男はTシャツの下から腕を入れ、首までめくり上げる。
そして直に熱い舌で円を描き、丁寧に舐り出す。男の片方の手がヒカルの柔らかい腹筋に触れている。
16歳の少年の匂いと、適度な柔らかさを、確かめるように。満足気に、男の息遣いが荒く、熱くなるのがわかる。
「な・・なんだよ、あっ、い、痛!」
身体を起こそうとすると身体の芯に激痛が走る。動けない。
卓上で仰向けになったまま、ヒカルは男のなすがまま、痛みで動けないままでいた。
熱い手はさっき自分を殺そうとした同じ腕とは思えないほど、奇妙に優しく自分の身体に触れる。
まるで、父親、そうだ、お父さんみたいな、いや、何をオレ考えてんだ、―ヒカルは言いなりになっていた。
でも・・じっとしていたら、コレ以上は痛くないから。だからオレはこいつにされるがままになってるんだ。
・・・・気持ち良い、からじゃない。絶対にそうじゃない。
(4)
ヒカルの身体から力が抜けた時、男は這っていた手をヒカルの竿に添え、優しく口内で犯した。
ねっとりと、くすぐるように柔らかい太股を擦りながら。男は美味しそうにしゃぶり始めた。
竿がビクビクと震えるたびに、ヒカルは恥かしさと屈辱で手を握り締めた。ヒカルは喘ぐ口を手の甲で押さえ、声を出さないよう、手の甲を噛み続けた。
目を閉じ、全てが終るのを待った。気持ち良い訳じゃない。良くなんかない。ただオレ、じっとしていたら、痛くない。痛くないから・・・
「あっ・・!ああっ」
男がしゃぶりつく。手の隙間から漏れてしまう声。暖かい舌がオレをメチャメチャにする。佐為、助けてよ佐為・・!
「塔矢・・・」
ヒカルは無意識に塔矢アキラの名前を呼んでいた。
「塔矢、塔矢・・・」
塔矢の微笑む唇。涼しげな目。
振りかえらない真っ直ぐな背中、だけど自分を呼んでいる、振りかえらない背中。
塔矢の名を呼んだ途端、身体が熱くなった。荒くなる呼吸が止められない。握り締めた手が汗をかいている。
噛みつづけた手の甲から血の味が広がる。震える唇。伝う涙。堅くなった竿の先を指の爪で弾かれた。
「あっ!」
身体が跳ねる。また暖かい物にくわえ込まれる。
「とう・・や・・とう・・あっ」
白い射精を止められず、ヒカルは声を出して泣いた。
闇は立ち上がり、自分に接吻してきた。ヒカルは目を閉じその男の接吻を受けた。
(5)
塔矢だ。
そう思うとヒカルは再び入ってきて自分の中を激しく犯す熱い竿をさっきとは違う物に感じた。
さっきよりも、その行為はもっとそこを傷付け、痛い。焼けるようだ。
だけどさっきと違うのは、出し入れするたびに何度も何度も接吻してくる男の息が、
ヒカルの嗚咽を優しい物にしていくのだ。溶けるって、こういう事だ。
血で滲んだヒカルの手の甲を優しく握る男の手。抱き起こされて、床に降ろされる。
床に座った男の竿をヒカルは何となく握って、その熱さに慌てて手を引っ込めた。
小さく闇が笑った気がした。
よつんばいにされ、ゆっくり入ってきた時、ヒカルは驚くほどの高い声をあげた。
瞬間、闇がヒカルの中に射精した。ヒカルがあまりに切なげに震えたので、男はたまらずにもう一度射精した。
ヒカルも同時に白い精液を床にまいた。
男は後ろからヒカルの頭を撫でた。ヒカルはぐったりと倒れこんだ。
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