夏 1 - 5
(1)
ボクは夏が好きだ。好きになったのは、つい最近だ。それまで、夏は冬生まれのボクにとって、
結構辛い季節だった。いや今でも、ボク個人としては夏は苦手なのだ。
でも、進藤と知り合って以来、ボクは夏が好きになった。進藤に夏はよく似合う。ボクは
彼に恋している。だから、彼が好きな夏をボクも好きになる。
…………と、ここまでは、健気なボクを主張しているが、実は、ボクには不純な動機があった。
ボクが夏を好きになった一番の理由………それは、夏になれば、進藤のガードが緩くなるからだ。
厳重に肌を隠していた上着が、タンクトップに取って代わり、二の腕が惜しげもなく晒される。
足下もジーンズから、ハーフパンツになり、彼のほっそりとしなやかなふくらはぎを堪能できるのだ。
(2)
進藤と親密になってから、知ったことだが、彼は全体的に体毛が薄い。薄いというか、
ハッキリ言ってナイ!(一部を除く)腋の下もツルツルで、そこを責められると、弱いらしい。
ボクが腋を舐めると進藤はいつもすごく甘い声で喘ぐ。
「ン………やだ……どうして、いっつもそこ舐めるんだよぉ………」
と、身体をくねらせて、逃げようとする。
進藤のその可愛い声が、余計にボクを煽ることに気付いてない。すごく可愛い。だから、
ボクはいつも…………………と、話が脱線してしまった。
要するに夏は、進藤が薄着で嬉しいのだ。が、嬉しいと同時に不満でもある。進藤が肌を
見せるのはボクだけでいいのに、どうして、そんなに気前よく他のヤツらに見せるんだ!
ボクがこういうと、進藤は必ず、「だって、アチーじゃん」と、ふくれっ面を見せる。その
拗ねた顔がすごく可愛くて……………と、まただ。
二年ほど前までは、進藤は夏でもガードが堅かった。夏だというのに、ハーフパンツの下を
スパッツで厳重に固めていたのだ。暑くないのか?ムレるんじゃないのか?どうして、
真夏にスパッツなんだ!?と、がっかりしたものだが………。それが今は……………
ふう…………。溜息の一つも出るというものだろう。
(3)
そんなボクの気持ちを知ってか知らずか、進藤は今日もノースリーブのパーカーに
短パンだ。しかも、素足にサンダル姿だった。……………………可愛いじゃないか………
「暑いな〜なあなあ、塔矢、海に行かねえ?海!」
「海?」
ウンウンとヒカルは何度も頷いた。店先においてある、頭を叩くと首を振るキャラクター
人形みたいだ。
海か………進藤と二人なら行きたいが………当然水着だよな………そうすると水着姿の
キュートな進藤を周りのヤツらに見せるのか………却下。
「なぁ、行こーよ。」
ボクの背中に抱きついて、可愛くおねだり。後ろから、顔を覗き込んできて、「行こう行こう」と
繰り返す。降参。こんな可愛い進藤に、ボクが勝てるわけがないのだ。
「しょうがないなあ……」
「やったぁ!」
バンザイと無邪気に喜ぶ進藤を見て、ボクも嬉しかった。
(4)
その場ですぐに計画を立てる。進藤は楽しそうに、ここに行きたいとか、ホテルはこことか
好き勝手なことを言う。ああでもない、こうでもないと、彼の望みを叶えるべく、ボクが
頭を悩ましていると
「………あのさあ、全部入れてくれなくていいんだぜ。二人で海に行ければいいんだから……」
と、優しく気遣ってくれた。なんて可愛いことをいうんだ。そんな風にいわれたら、ますます
ハリキッてしまうじゃないか。
燃えているボクのために、進藤が入れてくれたコーヒーはいつもの三倍うまかった。
「なァ、ホラ、海が見えてきた!」
列車の中で進藤がはしゃぐ。ずいぶん長い間列車に揺られていたが、興奮していたせいか、
二人ともすごく元気だった。いつも一緒にいるのに、列車の中でもずっとしゃべりっぱなしで
全然退屈しなかった。もっとも主に話していたのは、進藤でボクはそれを聞いていただけなのだが………。
列車を降りると、潮の香りが身体を包んだ。大きく息を吸い込む。風が気持ちいい。
「は〜気持ちいい………」
隣を見るとやっぱり進藤も、大きくのびをして深呼吸していた。
(5)
ホテルにチェックインして水着に着替えると、すぐに海へと飛び出した。砂浜に、
ビーチマットを敷いて、場所を確保。
すぐにTシャツを脱ごうとする進藤の手を止めた。
「何、すんだよぉ」
ムッとした調子で進藤がボクを見る。
「脱ぐな。」
「え〜?なんでだよぉ。泳げねえじゃん!」
「着たまま泳いで。」
進藤は大きな目をパチクリさせた。
「他のヤツにキミを見せたくない……」
「ハァ〜?塔矢、オマエ気にしすぎ!誰もオレなんて見てネエよ。」
今度は、ボクの方がムッとした。進藤は自分のことを全然わかっていない!こうしている
今だって、こっちをチラチラ見ている連中がいるじゃないか!ボクの気にしすぎだとか、
やきもち焼いているとかそう言うことじゃない。いや、嫉妬深いのは確かだけど…。
「ホントに、しょうがねえヤツだなぁ………わかったよ……着とくよ…」
進藤は渋々ながらもボクの願いを聞き入れてくれた。ありがとう、進藤。
「じゃあ、泳ごーぜ!」
進藤が、照りつける太陽よりもまだ眩しい笑顔をボクに投げた。
だがボクは、白いTシャツがどんなに危険なものなのかを、まだ理解していなかった。
|