オレが塔矢でヒカルがボクで 1 - 5


(1)
嵐の夜だった。鋭い閃光に続き、激しい雷鳴が轟いた。すぐ近くだ。
ヒカルは思わず体を起こすと「恐え…」とつぶやいた。
隣の床にしいた布団で眠っているはずの伊角さんが、声をかけてきた。
「ハハ進藤、雷が恐いんだ。一緒に寝てやろうか?」
伊角さん、小学生じゃないんだから。
「何でだよ、勝ったんだからオレがベッドだろ?」
勝負に勝ったらベッドで、負けたら下の布団で寝るように賭けていたのだ。
一度目が覚めるとヒカルは目が冴えてしまった。
眠れない時、自然に浮かんでくる顔がある。佐為…そして――塔矢アキラ。
――佐為、オレやっぱり、アイツと打ちたいよ…。
ヒカルはぎゅっと目を閉じた。


(2)
「ん…」ヒカルは目覚めた。何だか身体がだるい。寝不足のせいかな。
ヒカルの背中にぴったりとくっついて、添い寝しているのは…。
「あついよ…ぃすみさ…」振り向いて、ヒカルは固まった。誰だ、この人?
「おはよう」先に起きていたらしい男が、穏やかな表情でヒカルを見た。
いつもはメタルフレームの眼鏡の奥で、酷薄な光をたたえている薄い色の瞳
が笑っている。
「お、緒方先生っ?!」本格的に目が覚めた。先生が、なんでオレん家に?
ヒカルは、がばっと起きあがった。
正面の見なれないクローゼットの扉の鏡に塔矢アキラの姿が、写し出された。
下着すら身に着けていない塔矢が、ぽかんとした表情でこちらを見返している。
そのとても同性とは思えない、なまめかしい肢体にヒカルは息をのんだ。
理解しがたい状況にもかかわらず、思わず下半身が反応しそうになった。
「先生だって?クックッ何か夢でも見てたのか、アキラ君」…アキラ君?
ヒカルは黙ってベッドを下りると、フラフラと緒方のマンションらしい部屋の
バスルームに向かった。
ヘンな夢…目を覚まそうとばしゃばしゃ音をたてて顔を洗ったあと、鏡に写った
のはしかし、塔矢の端正な顔と、切りそろえられた真直ぐな髪だった。
コレってキスマークだよなぁ……じゃなくて。「なんでオレが塔矢になってんだ?」
超常現象には慣れていないこともないヒカルは、緒方の事はともかく、状況を受け入れた。


(3)
ヒカルは何度かあかりとキスしたことがある。
唇ってやわらかいんだな、と思いドキドキした。
今、緒方から強引に受けているそれは、あかりとのキスとは全く違っていた。
寝室に戻ったヒカルは、裸のままいきなり緒方に抱きすくめられ、唇を奪われた。
「ん、ん…っ」舌が挿し込まれ、ヒカルの舌に絡みついた。強く吸われ、甘く噛まれる。
緒方の大きな手が、塔矢の滑らかな背中を這い上がり、真直ぐな髪を撫でた。
「ハァッ」唇がはなれた時にはヒカルの息は上がり、頬には赤みがさしていた。
「今日は一段と可愛いな。…昨夜の続きをするかい、ん?」…じ、冗談じゃねぇよ。
「オ…ボク、もう帰ります」そうは言ったが、帰るって、オレはどこへ帰ればいいんだ?
「そうかい、残念だ。朝食がすんだら送っていこう」緒方はそう言うと、眼鏡をかけた。
そしてヒカルの知っている(素面の時の)先生に戻ったように見えた。


(4)
ヒカルは、寝室に取り残された。塔矢の服が見当たらないのでクローゼットを開けてみたが、
そこにはスーツやネクタイが並んでいるだけだった。
ヒカルは仕方なく、ベッドの上にあったぶかぶかなガウン(猪木?)を着ると
クロワッサンとカフェオレが用意されたテーブルに付いた。「いただきます」
白い皿の上の熱くパリッとしたクロワッサンを齧り、カフェオレを一口飲んだ。ほんのり甘い。
緒方は、ブラックコーヒーだけを口にしている。トーストしたクロワッサンは塔矢の為
だけに用意されたものらしい。
「下着は乾燥機、服はコンピュータの椅子の背だ。昨日そこで全部脱いでしまっただろう?
クックック」
何故そこで、笑う。「あ、そう、か。着替えてきます」
「食事を済ませてからでいい。何ならそのままでいなさい。なかなかセクシーだ」
ヒカルは、すぐ着替えてくることにした。このままでは朝食のかわりにされかねない。
塔矢のパンツは先生の衣類と一緒に乾いていた。ヒカルは光る素材の黒いパンツを
指でつまんで、ぶらさげた。「うわ、ヒモみてー、面白え」
熱帯魚を見ながら、服を着た。ヒカルの家に泊まった時、確か塔矢は枕元にきちんと服を
たたんでいた。「それどころじゃなかったのかもな…」どういう状況だったのかを
つい想像たくましく映像化してしまい、ヒカルは赤面した。オレってヤらしいな…。


(5)
緒方さんのキスで、アキラは目覚めた。
「…」緒方はアキラを起こさないでおこうとしてか、そうっと唇を重ねてくる。
じゃあ、ボクが…アキラが舌を挿し入れると、緒方も応えてきた。「ん…っ、ふ」
舌が絡み合い、唾液が湿った音を立てる。でも何か変…ボクに主導権があるみたいだ?
アキラが彼の上になり、身体を重ねると熱く猛ったものが腿の付け根に押しつけられた。
昨日あんなにしたのに、緒方さんのエッチ…。
朝だというのに欲情してきたアキラは、息遣いも荒く布地越しにそこをギュッと握った。
少し乱暴に指を動かしながら、アキラはシーツの中に潜りこんだ。可愛がってあげる…。
「ぁあうっ!そんな、し、進藤ッ!」男が小さく叫び、ボクの髪に指を絡ませた。
「ええっ?」緒方さんじゃない!アキラは布団をはねのけると、相手と向き合った。
ええと、確かこの人は…「イスミ、さん?」どういう事だ?ここは、この部屋は進藤、の?
見覚えのある碁盤が目の端をかすめる。さっきまでの興奮が嘘のように冷めていく。
「進藤ォオ!」一方、興奮冷めやらないらしい伊角に、今度はアキラが押し倒された。
「いやだッ、は、放して下さい!」振り払って、出口に向かいドアを後ろ手に閉めた。
階下にある洗面所へ行き、顔を洗って鏡を見たアキラは、自分が写っているはずの
そこに、進藤ヒカルの姿をみとめた。淡い色の前髪に少し寝癖がつき、額が見えている。
「進藤…」可愛いな…ハァハァ……じゃなくて!「どうしてボクが彼になってるんだッ!」

アキラは緒方さんと一緒にTVで観た『転校生』という古い映画をぼんやりと思い出していた。
こんな事、現実にあるわけがない。アキラは古典的な手法を使うことにした。
進藤のキュートな頬を、思いきり抓ってみたのである。「う、痛いッ」



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