ルームサービス チャウダー犬編(1)


(1)
”ルームサービスをお持ちしました”
その部屋に入ったとき、オレは自分の好奇心がぐぐっと頭をもたげるのをとめられなかった。
ホテルの客室係をやってもう4年、世の中にはいろんな客がいるものだが、それでもその部屋の客はとびぬけて奇妙と言えた。
まず、若すぎる、せいぜい15,6。その上、スーツを着ている。
確かに15,6の人間が一人でホテルに泊まる例もある。受験だとか、その他、例えば葬式だとかで、しかしそういう場合スーツなどはきない。15,6の人間の喪服はたいがい学校の制服で、間違っても誂えたスーツなどであるはずがない。
もうひとつ別の例もある、俺はこの業界に勤めてから、以外と親父のペットをやってる若い男というのは多いのだと知った。
しかし、そういう人間はにおいでわかる。たいがい買われましたという匂いを発散しているものなのだ。
しかし、目の前の人物はそんな匂いはまったくしない。
年の割には眼光炯炯、肩で切りそろえたに真っ黒なおかっぱ髪がなぜか似合っている。
「・・・・・うっ」
だが、部屋にいるのは彼だけではなかった。ベッドの中にはうずくまるようにしてもう一人、後ろだけみえるアタマはずいぶんと小さいが、子供ではないようだ。
だが、ふときがついた。
機械音
ベッドの中にうずくまっている人物の肩が軽く震えている。
何もかも納得した。こういうことは案外多い。目の前の少年がそういうプレイで自分を呼びつけたのだと思うと口笛を吹きたい気分になったが、もちろん顔には出さずにワゴンを押す。
「食事をお持ちしました」
だが、そのとき、
俺の声にはじかれたようにベッドの中の人物が振り返ってこちらを見た。
「と・・お・・や」
息も絶え絶えに発された声の主。
その生き物を見た瞬間に俺は心臓をわしずかみにされた。

 うっすらと桜色にそまった目元に涙をたたえた大きな瞳。つややかな頬。
うすくひらいた。ぷっくりと魅力的な小さな唇。それらは金色の髪に彩られている。
 その美しい生き物は俺の姿を見て、驚いたように目を見開く。


(2)
「な・・に」
だが、すばやく立ち上がった黒髪の少年が、生き物が質問を発する前に唇を閉じてしまった。
「んっ」
少年の舌が生き物のかわいらしい唇を割って入り、生き物の頬の色がさらに濃くなり、閉じられた睫が震える。
「んっん」
俺はギクシャクしながら、部屋を出た。や・・、と生き物の声が聞こえる。首筋がちりちりとして死にそうだった。
生き物の唇をむさぼっている少年が、ぎろりと俺を睨んでくる。ああ、そうだ。こういう場合でも何も見なかったように部屋を去るのが
俺の仕事だ。
だが・・。
前が膨らんでしまっている。なんてことだ。たかだキスシーン。裸を見せられたわけでもないのに。たったそれだけで。
「失礼します」


(3)
しかし、テントを張った前をどうにかしなければどこにもいけない。
ちくしょう・・・。手ぢかなトイレに向かおうとして、ふと気が付いた。
サインもらってないじゃないか。
振り返ろうとしたとき、部屋の扉があいて、おかっぱが出てくる。
俺は少しがっかりした。もう一度、あの生き物の姿が拝めると思ったのに。
「サイン、忘れてますよ」
でサインをしながら、俺の股間に、ふと視線を落とした。
おかっぱの唇に笑みが浮かぶ。
・・・ああ笑え、たっちまってるよ。ちくしょう、・・・
「今日の勤務はいつあがるんですか?」
「へ?」
「じゃあ、あがった後に部屋に来ます?」
「へっ?」
驚いたておかっぱを見る。それって。
 「進藤は見られてる方が好きなんだ」
 急にオカッパの口調が変わった。
「キミも見たいんだろ、進藤を、じゃあこいよ」
俺は信じられない思いでオカッパを見詰めつづけた。


(4)
その後のオレの任務は散々だった。頭の中をあの小さなぷっくりとした唇が、潤んだ大きな瞳がちらつく。
本当に信じられない。
あの機械音。ヴァイヴの音だった。何度かきいてるから間違いない。あの可憐な生き物の下のお口には間違いなくあの瞬間にヴァイヴがつっこまれて振動していたのだ。
「・・・・くっ」
たちそうになる、自分をこらえる。
勤務が終わるまでがとてつもなく長い時間に感じられた。

「もうすぐ彼が来るよ」
進藤にささやきかける。だが、進藤には聞こえているのかいないのか。ただ、弱弱しく首をふるばかりだ。
ムリもない。ぶっつづけに何時間もヴァイヴであえがされてちっとも休んでいない。しかも一度も達していない。前はかわいらしくたちあがったままずっとなので相当体力的にきついだろう。
「お・・・わらせて、とう・・・や・・・で。・・・・いき・・・たい」
塔矢の肩にアタマをすりつけながら、甘えるように懇願してくる。
「だめだね。何でもするっていったじゃないか。キミ。それにもうすぐあいつが来る時間だ」
進藤の瞳が見開かれ、唇が噛み締められた。
「本・・・気・・・塔・・・ぁああああ」
突然ヴァイヴを引き抜いたので、進藤は大きく体をのけぞらせて、ひきつった声をあげた。
その後、衝撃を耐えるよういしたを向いてあえいでいる進藤のワキとひざの下に手を入れ、もちあげた。
「何・・・・するの」
不安そうな瞳が聞いてくる。
「お迎えの準備、彼が来る前にね」

長い長い勤務が終わりようやく俺はその部屋の扉をあけた。
目に飛び込んできたものは・・・・。
机の上に、大の字に広げられた、一糸纏わぬ手足。
いや、正確には一糸もまとってなかったわけではない。その上にはさきほど。ルームサービスで持ってきた。サンドウィッチが乗せられていたのだから。


(5)
「入れよ」
オカッパに言われて、硬直していた体がようやく動いた。
ドアを閉める手が汗ばんでいる。視線は机の上の裸身から離せない。
俺の視線を意識しているのかどうかはわからないが、生き物は、唇を
噛み締めて頬をそむけている。
驚いたことにその生き物は男だった。広げられた手足の中心には間違
えようのないものが、屹立し、きらきらと光っていた。さっき俺がも
ってきたメープルシロップが塗られているらしいと気が付いた。
人数にしてはやたらと量の多い注文だった。それはつまり食べるためで
はなかったらしい。腰枕をあてがわれているので、生き物の広げられた
足の奥まで、よく見えた。
生き物は・・・・。
華奢な足の中心からは、あわれにもグロテスクな異物がのぞいていた。
ヴァイヴではない。それにはコードがついてなかった。
唖然として何もできず、ただ生き物を見つづける俺の様子に満足した
ようにオカッパが、ソースで汚された、小さな乳首に唇をよせる。
そっと含んだかに見えたが、意表をついて、オカッパの髪は激しくゆれた。



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