猿の惑星 1 - 5
(1)
「…ん…」
ボクは瓦礫の山の中、目を覚ました。
「ここは…?」
そうだ…確かボクは進藤ヒカルと、許されない♂同士の恋愛の為に地球を昨日旅立って…
それで…
「…進藤?」
そういえば進藤がいない。
と言うか、一体ここは何処なんだ?
周りを見渡してみても、あるのは壊れた宇宙船と岩石だらけの干からびた土地しかない。
「地球じゃあないよな…此処は一体何処なんだ…」
僅かな食料と服を鞄に詰め、ボクは宛も無く歩き始めた。
「っ……」
全身が痛む。
当たり前と言うべきか、なにせ宇宙船が墜落したのだ。
寧ろ生きているのが不思議なくらいだ。
進藤の死体は幸い転がって無かったし、きっと何処かで生きている。
それだけがボクの希望、生きる理由…。
だから進藤、お願いだから返事をしてくれ…!
(2)
「進藤…進藤…」
もう三時間は歩いただろうか…いつの間にか周りの景色は少し変化し、草木が所々に生えている。
もう足は棒の様で、感覚すら無い。
それでもこんな所でくたばる訳にもいかず、気力だけでボクは一歩を前に踏み出した。
『…ホ…ウ…』
「え…?」
今、遠くで何かの声が…何だろう?
ボクは耳を澄まし、何となく物影に隠れてみる。
『ウッホ…ウッホ…』
う…うっほ?
何なんだ?まるで…そう、ゴリラか猿のような…
『やぁ…と……ぁ〜っ…!!』
「!!?」
…進藤!?
今、ゴリラの声に交じって、進藤の声がしなかったか…?
慌てて荷物を肩にかけ、ボクは声のする方向に走り出した。
もしかしたら進藤に会えるかもしれない…!
そう思うと、足の痛みなんてCHA-LA-HEAD-CHA-LAだった。
進藤…待ってて…今行くから!
(3)
ーとある集落ー
『こいつ、人間だよな?』
『そうですね。ケッ!人間のくせに服なんか着てやがる!馬鹿ですかね?こいつ』
ゴワゴワとした黒い毛皮、テカった鼻。
まさしく彼らはチンパンジーだった。
ただ一つ違うのは、明確な意思の疎通を、言語を以てしているという事。
ヒカルは棒に両手両足を括り付けられ、豚の丸焼きの様な恰好で運ばれていた。
「!!?〜離せっ!なっ何してんだよこのサル!?気持ちわる〜っ!!動物園か!?ここは!」
目覚めたヒカルが大声でそう叫ぶ。
すると猿達は一瞬目を見張らせた。
『おい…今こいつ、喋ったか?』
『あ、はい…何て言ってんのかは分からないっすけど…』
「ちくしょう!何でサルが喋ってんだよっ!いやだ!塔矢っ…とうやぁ〜っっ!!」
『わっ!まっまた喋ったぞ!?何だコイツ!』
『気味が悪いな…クワバラ長老んトコに連れて行きますか?』
『あ、ああ…そうだな。よし、行くぞマシバ!』
『あっ待ってくださいよ!』
「ああっ何処に連れて行くんだ!?やめろ!やだやだやだやだ〜っっ!!」
(4)
ボクは漸く、何処かの村の集落にたどり着いた。
だがそこに見た物は目を疑うような情景で…。
『オラっさっさと歩け!人間が!』
「あぐぅっ」
なんと、チンパンジーらしき物体が事もあろうに鞭で人間を叩いているのだ。
下半身だけなんとか布で隠してはいるが、ほぼ全裸で身体は泥だらけ傷だらけ。
ボクは夢でも見ているのか…?
『んん?』
「!!」
チンパンジーの一人がこちらを向いた。
ボクは咄嗟に身を叢に隠し、そっとあちらの様子を伺う。
『どうした?』
『いや、何か視線を感じたんだが…勘違いだったらしい』
一体何を喋っているんだ…?
……え?
喋って…?
言葉を…喋る?
んな馬鹿な…
頭が混乱する。まてよ、1+1=2…じゃなかった、ここは地球外の惑星で、ボクと進藤は不時着して…
待てよ、何で人間や猿がいる?しかもあれじゃあまるで、立場が逆じゃないのか…?
「一体ボク達は…何処に来てしまったんだろう…」
(5)
『フム…こいつは…』
長老のクワバラは、この物珍しい人間をまじまじと見つめていた。
「な…何だよこいつ…喋ってやがる…」
ヒカルは着ていた衣服を脱がされ、全裸で床に張り付けにされていた。
『確かに何か喋っておる…それに、服まで着ておるとは』
無造作に投げ出された服を拾う。
両手で広げてみると、焼け焦げた跡もあった。
「かっ返せ!桑原のジイさんみてぇな顔しやがって!おいこのサル!聞いてんのか!」
いくら罵倒を浴びせた所で通じる訳が無い言葉。
だがそれでも必死に叫び、目の前の猿達を威嚇する。そんなヒカルを見てクワバラは眉間に皺を寄せ、
『ふん…何を言っておるのか分からんが、皆下がれ』
『え…?何故ですか?』
『うるさい!早くこの部屋から出て行くんじゃ!』
『はっはい!では…』
ぞろぞろと猿達が部屋を後にし、そこにはクワバラとヒカルの二人きり。
ヒカルの顔には冷や汗が流れる。
『チ…とうとう来おったか』
「……?」
『これをワシは恐れていたんじゃ…お前のような知識のある人間がやってくるのをな』
そう言い、ヒカルの髪の毛を鷲掴む。
「いてっ!」
『お前なんぞ、若い衆の慰みモンにでもしてやるわ…そしてその後は丸焼きにして食ってやる!…おい、マシバ達!中に来い!こいつを処刑場に連れて行け!』
ヒカルの顔を平手打ちし、クワバラがマシバ達若者を呼ぶ。
ヒカルは身体を抱えられ、"処刑場"に連れて行かれた−。
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