それいけ☆ヒカルたん 1 - 5
(1)
「それじゃあ、佐為。パトロールに行ってきます」
ヒカルたんはマントをつけると、碁会所から飛び立った。
「ヒカルたん、今日も町の安全を守るため、頑張ってくださいねー」
佐為は手を振ってヒカルたんを見送った。
「あれ、ヒカルたんは?」
「トーマス!!まだ眠ってたんですか!? ヒカルたんはもう行ってしまいましたよ」
トーマスはまだ眠い目をこすりながら、急いで着替えると、ヒカルたんのあとを追うべく、飛び立った。
「二人とも、気をつけてくださいねー」
佐為は大きく手を振ると、碁会所の中に戻っていった。
(2)
ヒカルたんは空を飛びながら町の様子をうかがう。
学校など子どもたちが集まる上空を飛んでいると、いっせいに「ヒカルた〜ん!!」と呼ばれる。
ヒカルたんはそれに笑顔で手を振って答えると、子どもたちはキャッキャッと喜んだ。
ヒカルたんは悪からこの町を守るスーパーヒーローなのだ。
町は今日も平和な朝を迎えていた。
(3)
町のパトロールを終えたヒカルたんは、森のほうへと向かった。
「よし、ここも異常なしだな」
ヒカルたんはそれを確認すると、碁会所へ帰ろうとした。
そこへ女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。
ヒカルたんは慌てて森に引き返す。
しかし木々が生い茂っていて、泣き声の主がどこにいるのかわからなかった。
ヒカルたんはゆっくりと着地すると、女の子を捜すため、森を歩き回った。
するとおかっぱの女の子が泣きながら大きなかごを重そうに引きずって歩いていた。
「大丈夫か?」
ヒカルたんがそう聞くと、おかっぱの女の子は泣きながら抱きついてきた。
「イチゴをかごいっぱい摘んで来いって、おば様に言われて・・・。でもイチゴなんて全然無
くて・・・。気がついたら道に迷っちゃって・・・」
女の子は安堵から、涙が止まらなかった。ヒカルたんはよしよしと女の子の頭をなでる。
「それじゃあオレが家まで送ってあげるよ」
ヒカルたんはにっこりと笑った。
「ダメなんです! このまま帰っても、また追い出されるだけです。かごいっぱいにイチ
ゴを摘まない限り、帰れないんです!!」
女の子は涙ながらに訴えた。しかしヒカルたんは微妙な心境だった。
今はイチゴの時期ではない。だからこのかごいっぱいに摘むなど、どう考えても無理なの
だ。この子にはかわいそうだが、それは家を出て行けと間接的に言われたも同然だ。
しかし心優しいヒカルたんは諦めなかった。
「よし!それじゃあオレも手伝うよ。二人で協力して、おばさんをビックリさせような」
うんと女の子はうなずくと、やっと泣くのを止めた。
(4)
ヒカルたんは女の子を背中に乗せると、イチゴがありそうなポイントをいろいろと回った。
しかしイチゴを見つけることはできても、本当に数個程度なので、かごはまったく埋まら
なかった。
「・・・もうイチゴ、ないのかなぁ」
女の子は寂しそうに言った。
「そんなことないよ。頑張って探そうな」
ヒカルたんは女の子を励ます。しかしヒカルたんはもう限界に達していた。
この広い森のイチゴがある場所すべてを回ったのだ。それに自分の背丈と変わらない女の
子と大きなかごを乗せて数時間も飛んでいれば、疲れてしまうのも当然だった。
ヒカルたんは休もうと思ったが、女の子を早く家に帰らせてあげたい気持ちから、必死に
頑張った。
「あ、そういえば。この前イチゴがいっぱいとれる穴場を見つけたんだった!!」
女の子のその言葉に、ヒカルたんはもっと早く言えよと思ったが、口には出さず、すぐさ
まその場所へ急行した。
(5)
そこは薄暗い洞穴だった。穴場は穴場でも、ちょっと意味が違うんじゃないかと疑問に思
いつつ、ヒカルたんは女の子に続いて入っていった。
「なぁ、本当にこんなところにイチゴなんてあるのか?」
ヒカルたんは疑心暗鬼になって、女の子に聞く。しかし女の子は慣れた足取りでどんどん
奥のほうへと進んでいく。ヒカルたんは仕方なくあとをついていった。
突然ピタッと女の子の足が止まる。
ヒカルたんもそれに続いて足を止めた。
ガシャンッという音が後方で鳴り響く。ヒカルたんは後ろを振り向いた。
パッと明かりが灯る。そこには牢獄のような頑丈な柵があった。
「なんだコレ。どういうことだよ!!」
ヒカルたんは柵を叩いたり蹴飛ばしたりしてみた。しかし頑丈なそれはビクともしない。
その様子を見て女の子が高笑いをした。
「ハハハッ!! ヒカルたん、やっと捕まえたぞ」
そう言うと女の子は着ていた服を投げ捨てた。そこには若゙キンマンが立っていた。
若゙キンマンとはヒカルたんを執拗につけ狙い、そのためなら周りにどんな危害を与えても
かまわないという卑劣で残酷な敵だった。
「若゙キンマン!! なんでおまえが」
ヒカルたんはあとずさった。しかし、逃げる場所などどこにもない。ヒカルたんは唇を噛
み締め、若゙キンマンを睨む。
「よくも騙したな!!」
「ボクは騙してなんかいないよ。本当にイチゴを摘みに来たんだから」
ヒカルたんは必殺技のヒカタンパンチを打つタイミングを見計らった。
しかし若゙キンマンは臆することなくヒカルたんに忍び寄った。
するとどこからともなく触手のようなものが伸びてきて手や足、腰など体中に巻きついて、
ヒカルたんの動きを封じた。
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