隙間 1 - 5


(1)
「何だ、また来たのか?」
昼間からウィスキーをあおっていた緒方は、突然のインターフォンに少々気分を害されは
したものの、来客…進藤ヒカルの姿に口の端だけ曲げて、揶揄するように言った。
その緒方の態度に、ヒカルは困ったように眉を寄せて黙ったまま、玄関に突っ立っている。
「入れよ。運が良かったな、いつもは忙しい俺も今日はフリーだ…」
促されるままに靴を脱ぎ、勝手知ったるがごとく、遠慮なくヒカルは奥の部屋へと足を向けた。
「思う存分、お前に付き合ってやるよ」
その緒方の言葉に、ヒカルは落ち着かないように部屋を見まわしているだけだった。
「こんな昼間から飲んでたの?」
リビングのテーブルに置かれているウィスキーとグラスを見て、ヒカルが緒方に話し掛けると
緒方は喉の奥で「クックッ」と笑った。そんな事を言いにわざわざ来た訳ではあるまい。

「早く服を脱げ。そのために来たんだろう?」


(2)
緒方のストレートな言葉に、ヒカルは真っ赤になってもじもじと俯くだけだった。
「どうした?そのために来たんじゃないのか?」
緒方にはヒカルの目的が分かっていたが、わざとヒカルを試すような事を言う。
「それじゃあ一緒に酒でも飲むか?ウォッカでもワインでもビールでも、何でも出してやる」
「………オレ、未成年だよ…?緒方さん…」
「未成年ねえ。ふーん、そうか・・・未成年だったな、クックッ、そうだったそうだった・・・」
緒方はまた楽しそうに笑うと、ソファに腰掛けながらグラスを手に取った。
「お前の好きにすれば良い・・・俺はどっちでもいいんだがな?」
突っ立っているヒカルにかまわず、またウィスキーをなみなみとグラスに注ぐ。
ヒカルは俯いてわずかに震えていたが、意を決したようにシャツに手をかけると、
一枚、また一枚と、ゆっくりゆっくり服を脱ぎ始めた。
その様子をみて緒方は、口だけ笑いながらグラスを傾けるのだった。


(3)
ヒカルが緒方の部屋を訪れるのは、決まって佐為の夢を見た後だった。
勿論、緒方はそんな事情など知らない。ただ、佐為を恋しがって感情を持て余すヒカルが
最初に訪れたのが緒方だっただけだ。緒方はヒカル以外に最後に佐為と対局した棋士だった。
追い詰められたヒカルは緒方に、この寂寥感を埋める方法を、佐為の事は持ち出さずに
緒方に相談した。緒方は簡単だと言った。心の隙間は体で補えば良い。
「俺が教えてやるよ」
そう言った緒方の目は、ヒカルにはこの上なく優しく映った。
例えそれがどんなに非常識な事であっても、毎夜訪れる佐為を失った寂しさを忘れられるなら、
どんな代償も払えると。服を脱がされ、男としての屈辱は快感に溶かされ、羞恥は快楽に飲み込まれて
いった。ヒカルは女を知る前にsexを緒方に教えられた。
それからは、事ある毎に緒方の部屋の前に立つヒカルがいた。
佐為の夢は口実なのかも知れなかった。緒方に、教え込まれた淫猥な行為を懇願するための。


(4)
「全部脱ぐんだよ」
緒方は下着一枚残して躊躇するヒカルに容赦ない言葉を叩きつける。
ヒカルは恥ずかしがって俯いたままふるふると震えるだけだ。
そんなヒカルにテーブルを挟んだソファに座っていた緒方は唐突にあおっていたグラスの
中身をヒカルの下着にぶちまける。ウィスキーの冷たさにヒカルは「ひゃっ」っと悲鳴を上げた。
「そら、脱ぎやすくなったろう?早くしろよ、俺は気が長い方じゃないんでな」
ヒカルは泣きそうに顔を歪めて、ゆっくりと下着を下ろした。
そのペニスは緒方の言葉に反応したのか、ゆるく立ちあがっていた。
ヒカルは慌てて股間を隠して、震えて耳まで真っ赤にしながら緒方の言葉を待っている。
「ふん、もう感じているのか?まったくイヤらしい奴だ、未成年のくせにな。ハハハッ!」
緒方の揶揄もヒカルは甘んじて受けるしかない。我慢しきれなくなったヒカルは
空になったグラスにまた酒を注ぎ始めた緒方にすがるような視線を送る。
「お、が…た…さぁん…」
「ン?焦るなよ…俺はもうちょっと飲みたいんだ。じゃあまずお前、一人でやって見せろ」


(5)
緒方の非情な言葉に、ヒカルは泣きそうな顔で「できない」と言うように首を振る。
「何だ?俺は別にどうでもいいんだ。それじゃあ、もう帰るんだな?」
突き放すような態度に、ヒカルはそれも嫌だと視線を送るが、緒方は黙ったままだ。
やがて意を決したように、そろそろと自分のペニスに手をかけると、へたり込むように座って、
ヒカルは緒方の目の前で、マスターベーションをし始めた。
うつむいて歯を食いしばって声を抑えていたヒカルだが、我慢しきれず吐息と嬌声が入り混じる。
「うっ……、あっ…はぁっ…」
だんだんと手を汚す己のカウパー腺液がヒカルの手の動きを助け、快感を引き出してきた。
その時、ヒカルのオナニーをただ黙って見ているだけだった緒方がソファから立ちあがり、
座り込むヒカルの前に立つと、おもむろにペニスを扱いていたヒカルの手ごとその濡れた股間を
足で強く抑えつけ、その動きを止めた。
「うあっ…!ヤ…ッ、ヤメ……っ、アッ!ぉ…がたさぁん!」
ヒカルは強い抗議の声を上げたが、体では逆らう事が出来ない。
緒方は口元に微笑を浮かべたまま、ぐりぐりと足を股間に押し付けながら、楽しそうにヒカルに問うた。
「誰のことを考えながら弄ってるんだ?え?言ってみろ、進藤」



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