初めての体験+Aside 1 - 5


(1)
 久方ぶりの東京だった。この一ヶ月間長かった。漸くヒカルに会える。約束の時間は
8時半だが、少々早く着きすぎた。自分ちょっとハリキリすぎかもしれん…と、思わないでも
なかったが、やっとヒカルに会えるのだからしょうがない。
「進藤に会ったら、最初になんて言おう。」
舞い上がって、また、とんでもないことを言ってしまわないように、少しシミュレーションを
しておくべきだと思った。
 「久しぶりやな」とか、「元気やったか」とか在り来たりの挨拶しか思い浮かばない。
本音は「すごく逢いたかった」だが、これを言うのは照れくさい。散々悩んだが、気の利いた
言葉を思いつかなかった。ふと気がつくと時計は8時半を少しまわっていた。
「…!アカン!すぎとる!」
慌てて、約束の場所に急いで走った。
 ああ、やっぱりもう来とる。遠目に見てもすぐにわかる。相変わらず、ヒカルはメチャクチャ
キュートだった。大きな荷物を手に持って、自分を捜しているのかきょろきょろと辺りを
見回している。
 社は大きく深呼吸をした。走ってきたのを悟られないように息を調えた。落ち着いて声を
かけた。
「進藤。」
「社。」
ヒカルがあのお日様みたいな笑顔を自分に向けた。一瞬、言葉が出なかった。にやけてしまいそうな
自分の表情を無理やり消した。
「一ヶ月ぶりやな。」
結局、口から出たのは何の変哲もない極々フツーの言葉だった。


(2)
 電車に乗り込み、ドアの付近に立った。
 社は、ヒカルに初歩の質問をした。
「塔矢の家は、こっから遠いんか?」
「近いよ。」
ヒカルは即答した。が、
「――――って、オレも初めて行くんだけどさ。」
と、付け足した。
 それは、ないやろっ!と、ツッコミそうになったが、やめた…。ヒカルが、初めてだと
言うのなら、初めてなのだろう……。そういうことにしておこう。
 会話が途切れた。社は何となく窓の外を眺めた。外は真っ暗で、景色はまるで見えない。
ガラスに自分とヒカルの姿が映っている。ヒカルの身長は、前と同じ社より頭半分小さい。
車内は少し混み気味で、二人の身体が密着…とまではいかないが、かなり近くにヒカルの
顔があった。風呂に入ってから出てきたのだろうかシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。
ヒカルの柔らかそうな髪に触れたくなった。いや、“柔らかそう”ではなく“柔らかい”のだ。
自分はそれに触れたことがある。髪以外にもいろんな場所に触れた…。ヤバイ…思い出したら…。
 ヒカルが不思議そうに社を見つめる。自分の状態をごまかすために別の話題をふった。
「な…なんか食いもんの匂いがする…」
ちょっと苦しいか。あまりにも不自然な会話の流れだ…。
「ああ、コレ。お母さんに持たされたんだ。みんなで食べなさいってお弁当。」
ヒカルが屈託なく答える。唐突な質問にも何の疑問も持たなかったらしい。
 それより、社は感動した。ヒカルは結構口が悪い。礼儀も作法もまるでなっていない。
可愛い外見とは裏腹の、そのギャップが堪らなく可愛いのだが、言葉の端々に育ちの良さが伺える。
育ちが良いとはこの場合、いわゆる名家とか良家とかではなく、温かい普通の家庭で
大事に育てられてると言う意味である。
『ハァ〜やっぱり進藤や…“お”母さんに“お”弁当やて…』
自分の周りの連中と比べてみる。男も女も「オカン」「ベントー」だ。
 人目も憚らず、抱きしめて頭をグシャグシャに撫で回したい衝動に駆られた。


(3)
 駅に着いたとき、ヒカルが社に言った。
「塔矢の家、ここからちょっと歩くんだ。」
初めての割に妙に、詳しい…などというツッコミはいれない。ヒカルは地図を片手に先に
立って歩き始めた。ヒカルは地元だし、地図を見ただけで大方の距離がわかるのかもしれない。
 スタスタと歩くヒカルの後ろをゆっくりついていく。気のせいだろうか…。何か民家が
少ないというか…裏通りっぽい気がする。それでも社は黙ってヒカルの後を歩き続けた。
自分にとっては初めての土地だし、ちょっと違うんじゃないかと思っても口に出すことは
しなかった。何より、ヒカルと二人きりだと思うだけでドキドキする。しかも、夜道。
 “ちょっと”どころか“ かなり”歩いた頃、ヒカルがぽつりと言った。
「迷った……」
ちょっと待て!夜とは言え、何度も来た場所(ヒカルは初めてだと言っているが、
たぶんウソ)で、しかも地図まで持っているのに…?もしかして、進藤って方向音痴?
『メッチャ、可愛い〜』
外見が超可愛くて、碁がめっぽう強くて、それなのに方向音痴。
―――――アカン…!ますます好きになってしもた…。
 ヒカルがちょっと困ったような表情を浮かべている。
「あ…オレ、携帯もっとるで!何やったらコレで塔矢の家に電話……」
社は最後まで言えなかった。ヒカルが弁当を持った手とは逆の手を社の項にかけた。
そのまま、自分の方に引き寄せて軽く口づけた。


(4)
 言葉を失った社に、ヒカルは嫣然と微笑んだ。薄暗い外灯の下、その笑みはいつもの
ヒカルとは別人のように見えた。と、言っても社はそれほどヒカルのことを知っているわけではないのだが…。実際、会った回数はほんの三、四回だ。
「社、可愛いね…」
やっぱりウソやったんや…アキラの家も初めてじゃないし、迷ってもいないのだ。
「塔矢の家に行く前に、ちょっと二人きりになりたかったんだ。」
ヒカルは、無邪気に笑った。その顔は、社が一目惚れしたあの笑顔だ。
 「社、このまま塔矢の家に行くの辛いだろ?」
ヒカルの手がジーパン越しに、社をさすった。
「し…進藤!?」
 確かに、電車に乗っているときから、自分の分身は痛いくらいヒカルに反応していた。
なるべくあっち方面は考えないようヒカルを見ずに会話をしたりとか、酔っぱらい親父を
見て気分を盛り下げたりした。そんな社の涙ぐましい努力により、漸く、静まりかけていたものが、
ヒカルと夜道で二人きりというシチュエーションに、あの時以上に昂ぶっている。
「社、コレ持ってて」
ヒカルは、社に弁当の紙袋を手渡して、抵抗を封じた。もとより、社にヒカルに逆らう
術はない。
「ゴメンな。時間がないから、手でガマンしてくれよ?」
 ヒカルの繊細な指が、ファスナーを下ろしていく。その音がやけに大きく聞こえて、
もし、今、ここで誰かが来たらどうしようかと思った。


(5)
 ヒカルの柔らかい掌に包まれて、社はまた大きくなった。ヒカルは、片手で、睾丸を
優しくもみながら、もう片方の手で、ペニスの根本を少し強めに握った。そして、ゆっくりと
竿を擦り上げる。
「あ…はぁ…進藤…」
「社、気持ちイイ?」
「ん…イイ……」
ヒカルは、薄く笑うと、手の動きを早めた。
「あ…あぁ…出る…」
ヒカルの手が、ペニスの先端を包み込み、その中に社はすべてを放ってしまった。

 「じゃあ、行こうか?」
ヒカルはそう言うと、来たときと同じようにスタスタと前を歩いていく。ここに来るまでに、
かなり折れ曲がったり進んだりしたので、社にはどこをどう歩いてきたのかまるで憶えていない。
だが、ヒカルは何の躊躇いもなく、角を曲がり、道を進む。
『なぁんや…進藤、方向音痴とちゃうんや…』
だが、前を歩くヒカルの背中に、妙に頼もしさを感じたりもした。要するに、自分は
ヒカルのやることなら、何でも許せるのだ。進藤ヒカル=社の好みなのだ。
―――――でも、ほんなら何で地図なんか持っとったんやろ?
ヒカルに地図など必要ない。自分を引っかけるためにわざわざ用意したとも思えなかった。
 「社?疲れた?」
ヒカルが心配そうに声をかけた。考え事をしていたせいか、いつの間にか、ヒカルとの
距離が開いていた。
「全然、へーきや。」
社は、慌ててヒカルの所まで走って行った。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル