塔矢邸 1 - 5
(1)
ヒカルが母親が作った弁当を差し出すと「今夜の分はボクが用意しておいたから明日朝食べよう」と
アキラは答えた。
何の疑問も持たずヒカルは頷き、さっそく早碁の打ち合いが始まった。
ひとしきり3人で手合わせをし合って、気がついたら10時近くになっていたので
夕食をとることになった。
居間の食卓には何故か修学旅行のお膳のようにきっちり分けられた3人分の夕食があった。
空腹に耐えかねていたヒカルと社は貪るようにかき込む。
それを横目で見て楽しげに微笑むアキラだった。
食休みで横になったまま、間もなく社がそのまま眠り込んでしまった。
ヒカルが揺り起こしても目を覚ます気配はなかった。
「学校もあったって言っていたから仕方ないかもしれない。」
そうして別室で対局を始めたアキラとヒカルだった。
だが打ち始めて間もなくもじもじとヒカルが腰をくねせ、呼吸を荒げ出した。
「と…おや、オ…レ…」
「どうしたんだ、進藤。早く次の手を早く打ちたまえ。」
「…その、…何だかオレ、体が熱いんだけど…」
(2)
「何を言っているんだ、進藤。無駄口を叩いていないで対局に集中しろ!」
「で…も…」
何かを訴えるようなヒカルの表情にもやはりアキラの厳しい表情は変わらなかったが、
ため息をつくとアキラは立ち上がってヒカルの背後にまわり、屈んだ。
そしてヒカルの体に後ろから腕をまわすと、ぎゅっとヒカルを抱きしめた。
「ああっ!!」
それだけでもヒカルはゾクゾクと頬や手首の皮膚を粟立たせて切なく声を漏らした。
そんなヒカルの反応を楽しむようにアキラはヒカルの耳に息を吹き掛け、小さめで柔らかな
耳たぶを噛んだ。小さくヒカルが叫び声をあげた。
「ここが…変な感じがするのかい…?進藤…」
アキラはズボンの上からヒカルの衣服を押し上げて脈打っている熱く固いモノの先端を手でなぞった。
「んっ」
ヒカルがビクッと体を震わせた。
「…欲しかったら、ボクに勝つことだね、進藤。そうしたら…好きなだけ…」
アキラのもう片方の手が服の上からヒカルの胸を動き、やはり布の下で固くなっている
小さな突起を弄った。
「好きなだけ…進藤のこことか…ここを…ね…。」
ゴクリとヒカルの喉が動いた。アキラは突起を指で摘み、強く捻った。
(3)
「ああっ、塔…矢…あっ…」
ヒカルが首を捻ってアキラの唇を求めた。アキラは軽くヒカルの唇を吸い、舌でなぞる。
なおもヒカルがアキラを求めて舌を絡めようとしたが、アキラはヒカルから離れて
碁盤の向こうに戻ってしまった。
ヒカルは増々呼吸を荒くして体を震わせて自分の体を自分で抱くようにし、たまらず自らズボンの
ファスナーを下ろそうとした。
「ダメだよ、進藤。ちゃんとこの対局を終わらせないと…ね。」
「で、でも…オレ、…もう…ちゃんと…考えられな…い…」
ヒカルの声は殆ど涙混じりだった。
「どんな状況でも常に最良の一手を瞬時に選び出せるようにならなければ最強の棋士にはなれない。
神の一手を極められないよ、進藤。」
「神の…」
その言葉に反応するようにヒカルは碁盤に視線を移すと、意識を戻そうとするように頭を振り、
派を食いしばって震える指で石を置いた。そんなヒカルの様子をアキラは目を細めて見つめる。
「明日は社…」
ヒカルに聞こえないようアキラはそう呟いた。
―塔矢邸での北斗杯に向けての特訓の夜は長い。
(4)
しかしいくらヒカルでも、限界があった。
良い勝負に持ち込みかけたと思っても、するりとアキラの石はヒカルの先手を読み
勝負を奪っていってしまう。
一度は集中力で蹴散らした熱が、再び熱く尽き上がってヒカルの体内を遠火で炙りはじめる。
次第に前屈みになり、閉じた膝をよじりだしたヒカルにアキラが声をかけてきた。
「…どうしたんだい、進藤。君の実力はこんなものじゃあないはずだろう?」
アキラにそうたしなめられ、ヒカルはカッとなった。
「ずる…いよ、塔矢…!」
「ずるい?何が?」
「お前…オレに何か…変なもの…夕食に…」
それを聞いてアキラはクスッと笑った。
「確かに少し、君の食事に混ぜさせてもらったよ。…でもね、」
そう言いながらアキラの呼吸もわずかに熱を帯びていた。
よく見るとアキラの額にも汗が滲んでいる。ヒカルはハッとなった。
「…ボクが、君と違う条件で碁を打つとでも…?」
アキラも固く膝を閉じていたが、その中央が僅かに濡れたように滲み、膨れあがっている。
「待っているんだよ、ボクも…君が、ボクを負かすのを…」
(5)
口ではそう言いながらもアキラの指す手は一向に緩む気配がない。
ヒカルの体の中心は溢れそうな熱の波が押し寄せては引き、
ヒカルから冷静な思考力を奪って行く。
だが、アキラが本当に自分と同じ状態で打っているのなら負けられない。
アキラはそういう事で誤魔化したりウソを言ったりは絶対ない。
同じものを同じだけ服用したのならアキラも相当辛いはずだ。
なのに僅かばかり荒い呼吸で肩を震えさせながらも正座の姿勢をくずさないアキラの手前、
ヒカルも今以上腰を捩ったり、ましてやその部分に手で触れる事は出来なかった。
冷笑を浮かべてアキラはそんなヒカルと自分の状況さえも楽しむ余裕さえ見せている。
「くっ…そおっ…」
体のあちこちを蜘蛛の子が這うような感覚の中でヒカルは必死に歯を食いしばり、
神経を盤上に集中させる。
そうしてようやく、ヒカルはそこにある活路を見い出した。
石の流れを読み取り、地を奪いアキラを責め立てる。
「く…っ…」
アキラも、僅かに押され気味になると苦しげな表情を浮かべるようになった。
「ん、ん…」
アキラの方にも感覚の波があるらしく、少し気がそれると苦しげに目を閉じ、
必死でその波を追い散らそうとしているようだった。
そして出来た一瞬の隙をヒカルは逃さなかった。
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