やりすぎ☆若゙キンマン〜ヒカルたん癒し系〜 1 - 5
(1)
〜ヒカルたん癒し系〜
月明かりに照らされて暗闇に白く浮かぶヒカルたんの体を、トーマスは飽きることなく見
つめていた。
ヒカルたんは何時間にも及ぶ行為に疲れ果て、トーマスのベッドでぐっすりと深い眠りに
ついている。だがそれでもまだ離れたくないと、トーマスの手をぎゅっと握っていた。
トーマスはこれが夢ではないのかとヒカルたんに抱きついた。暖かい肌の感触、穏やかな
寝息、せっけんの香りがする体。目を閉じても確かに感じるヒカルたんの存在に、トーマ
スは嬉しくて涙を流した。
「…トーマス、どうかしたのか?」
いつのまにか抱きしめる腕に力が入りすぎてしまい、ヒカルたんは目を覚ましてしまった。
トーマスは急いで涙をぬぐう。
「泣いてるのか?」
ヒカルたんは心配そうに見上げた。
「なんでもねーよ。ただちょっと…おまえがそばにいるのが嬉しくてさ」
トーマスは顔をヒカルたんの胸にこすりつけるようにして抱きついた。ヒカルたんはまる
で母親のようにトーマスの頭をなでる。
「何バカなこと言ってんだよ。オレ達ずっと一緒にいたじゃん」
笑いながらヒカルたんはそう言った。
それをトーマスは唇を噛み締めて聞いていた。
ヒカルたんは若゙キンマンとの記憶全てをトーマスに置き換えていたのだ。
トーマスにとって今夜は初めて共に過ごす夜であるのだが、ヒカルたんはそれに気づくこ
となく、いつものようにトーマスに抱きついて眠った。
(2)
朝食を囲む食卓は異様な空気に包まれていた。
つい前日まで若゙キンマンと仲良く食事していたヒカルたんは、トーマスと二人だけの世界
をつくっている。
その隣でなんともないような顔をして若゙キンマンは黙々と食事をする。
佐為はおろおろして食事どころではなかった。
「ごちそうさまでした」
若゙キンマンは早々に席を立った。
「もう終わりですか? まだ随分と残っているじゃないですか」
佐為は心配そうに見つめる。けれどヒカルたんはそれに気づきもしない。
「すみません。これから急いで行かなければならない用事ができてしまったので」
若゙キンマンはそう言って謝ると、ヒカルたんを見つめた。だがヒカルたんの目に若゙キン
マンがうつることはなかった。切なそうに顔を歪めると、若゙キンマンは俯いてその場から
立ち去った。
その寂しそうな後姿を見て、佐為は怒鳴らずにいられなかった。
「ヒカルたん、どういうことですか? あれじゃ若゙キンマンが可哀想ではありませんか」
佐為の金切り声にヒカルたんは驚いた。
「何だよ朝から大声で」
鬱陶しそうに睨むヒカルたんに、佐為の怒りは更に増した。
「随分と酷いことをするんですね。昨日まであんなにも好きあっていたのに、こんなにも
すぐに捨てることができるんですか? 最低です、ヒカルたんなんか最低です」
そう言うと佐為もその場から立ち去った。
残されたヒカルたんはわけがわからず、小首をかしげた。
「何で佐為のヤツ、怒ってんだ? っていうか若゙キンマンて誰だよ」
ヒカルたんの言葉にトーマスは目を見開いた。
「ん? トーマスは若゙キンマンってヤツのこと知ってんのか?」
その問いにトーマスはどう答えようか迷ったが、知らないフリをするしかなかった。
「…いや、知らねーよそんなヤツ」
(3)
碁会所を飛び出した若゙キンマンは城へ戻っていた。
そしてヒカルたんの間の扉を開ける。城内はトーマスのせいで荒れ果てていたが、この広
間だけはきれいに残されていた。
一つ一つコレクションを見つめ、若゙キンマンは窓の外を見た。窓からはかすかにヒカルた
んのいる碁会所が見える。ふとあの頃の幸せだった記憶が甦り、若゙キンマンは無意識のう
ちにヒカルたんの名前を呼んだ。
「久しぶりだな。キミがそこまで落ち込むのを見るのは」
その声に驚き、若゙キンマンは振り向いた。
「…オガタさん!?」
タバコをくゆらせながら、オガタはゆっくりと近づいた。そして若゙キンマンの目の前に来
ると黒い艶やかな髪を優しく弄んだ。
「完璧主義のキミでも感情に流されることはあるんだな。しかし…」
オガタは黒髪を思い切り引っ張る。若゙キンマンは痛みのあまり顔をしかめた。
「トーヤ一族の恥さらしとなる行為はやめてもらおう。これでは何のために若゙キンマンと
いう名前をキミに与えたのかわからないじゃないか」
「は…はい」
返事を聞くと、オガタは手を放した。
開放された若゙キンマンは恐怖のあまりその場に座り込んだ。
その怯える姿をしばらく見つめていたオガタは口の端で笑うと、若゙キンマンの腕をつかみ
ベッドへと連れて行こうとした。
「待ってください。お願いします、オガタさん。許してください」
若゙キンマンは懇願した。しかしオガタはそれを聞き入れなかった。
「キミのお父様から言われているんだ。罰はきちんと与えるようにと。それにキミは今、
悪名高い若゙キンマンだろう。もうあの頃の泣いてばかりいたアキラたんじゃないんだ。
駄々をこねないでおとなしく罰を受けなさい」
オガタはそう言うと若゙キンマンをベッドへ押し倒し、服を引き裂いた。
若゙キンマンは諦めたかのように目を閉じると、埃っぽいシーツをつかんで、それが終わる
のを待った。
(4)
「おかしいですね」
碁会所の前で佐為はそわそわしながら若゙キンマンの帰りを待っていた。
いつもならこの時間は夕食を終えて団欒する頃だった。
「なァ、佐為まだ? オレもう腹が減りすぎて死にそうなんだけど」
夕食を待ちきれないヒカルたんは佐為の袖を引っ張った。
「ダメです。絶対食べちゃダメ。いいですか、皆がそろうまで夕食は無しです」
きっぱりという佐為にヒカルたんはふてくされた。
「ヒカルたん、本当にどうしたんですか? 若゙キンマンが帰ってこないのですよ? 心配
ではないのですか?」
ヒカルたんの行動を信じられない佐為は、ヒカルたんに詰め寄った。しかしヒカルたんの
口からは信じられない言葉が出た。
「だから何なんだよ。若゙キンマンって誰だよ。そんなヤツどうでもいいじゃん」
パシッと乾いた音が響く。ヒカルたんは叩かれた頬を押さえ、佐為を睨んだ。
「痛ッ。何すんだよ!!」
「見損ないました。私の知っているヒカルたんは誰よりも優しくて心のきれいな子だと思
っていました。だからこそあなたにこの町の安全を任せたのです。それなのに、どうして
そんな残酷なことが平気でできるんですか? 仮にもあなたたちは愛し合っていた仲では
なかったのですか?」
涙ながらに追及されたヒカルたんはそれでも食い下がった。
「佐為の方こそ訳わかんないこといってんじゃねーよ! だいたいオレがなんで見ず知ら
ずのヤツと付き合わなきゃならないんだよ。いったい誰なんだよ若゙キンマンって」
ヒカルたんの言葉に佐為は異変を感じた。どう見てもヒカルたんが嘘を言っているように
は思えなかったからだ。しかし何故なのか理解できない。
「とにかく若゙キンマンが帰って来るまで夕飯はお預けです。どうしても食べたいと言うの
なら、若゙キンマンを探しに行きなさい」
そう言われたヒカルたんは食欲には勝てず、渋々と探しに飛び立った。
その姿を不安そうに見送ると、佐為は碁会所へ戻ろうとした。ドア越しに何かもの言い
たげにトーマスが立っているのが見える。だが、佐為と目が合うと逃げてしまった。
佐為はため息をついてヒカルたんの向かっている方向を見つめた。
(5)
日も暮れ静まり帰った森の湖の畔に若゙キンマンは一人佇んでいた。
服を脱ぎ、ゆっくりと湖の中へ入る。だが疲労と激痛ですぐに倒れてしまった。傷だらけ
の体には水さえも凶器と化していた。突き刺さるような痛みが体中を走る。だが若゙キンマ
ンはそれでももっと深いところを目指した。そして腰まで浸かれるところに来ると、ゆっ
くりと手を下半身へ伸ばす。そして尻の穴へ指を入れ、中のものをかきだした。どろっと
白いものが体外に出て行くのを感じる。
若゙キンマンは空を仰いだ。東の空に不気味な赤い光を発している月が見える。まるで血塗
られたような毒々しい赤さに吐き気がした。
オガタの高笑いが耳から離れない。罰と称して行われた行為は、若゙キンマンに体だけでな
く心にも傷をつくっていた。ただでさえヒカルたんに裏切られたショックが大きいという
中で、その罰を受けるにはあまりにも酷なことだった。
しばらく呆然と月を見上げながら佇んでいると、背後に人の気配を感じて振り向いた。
そこには息を切らしながらふてくされた顔をするヒカルたんが立っていた。
その顔を見て、若゙キンマンは今すぐにでも飛びつきたい気持ちだった。けれども自分を見
る冷たい目がそれを思いとどまらせた。
「こんなとこで何遊んでんだよ。若゙キンマンだか誰だか知らないが、おまえのせいで夕飯
が食べれないんだぞ。さっさと帰ってこいってんだ。このバーカ」
「…そうか。ごめん」
謝った若゙キンマンを見て、ヒカルたんは帰るために飛び立とうとした。けれども俯いてい
る若゙キンマンが泣いているような気がしてやめた。
「ごめん。オレもちょっと言い過ぎた。けど、そんなことでおまえもいちいち泣くなよ」
だがいっこうに話そうとも動こうともしない若゙キンマンに、ヒカルたんは仕方ないと諦め
て湖の中へ入った。
「なァ、本当にオレが悪かったって」
すまなそうにヒカルたんは近づいた。しかし若゙キンマンは突然騒ぎ出す。
「来るな! それ以上ボクに近づくな!」
「はぁ? どうしたんだよ、おまえ」
逃げる若゙キンマンを訝しく思い、ヒカルたんは追いかけた。だがその原因はすぐわかった。
ヒカルたんはそれを見て我が目を疑った。
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