夜風にのせて 〜密会〜 1 - 5


(1)


「進藤、進藤。いつまで眠っているんだ」
アキラはヒカルの体を揺さぶった。しかしヒカルはよだれをたらしながら気持ちよさそう
に眠っている。情事の後、ヒカルは何故かいつも眠ってしまう。裸で眠るその無防備さに、
アキラは口の端をニヤリとさせた。
「起きないなら、食べちゃうぞ」
ヒカルの耳元で囁きながらアキラはヒカルに菊門をつついた。それでもヒカルは眠り続け
る。それをいいことにアキラは指を中に入れた。その途端苦しそうな声をあげて、ヒカル
が目を覚ました。
「な…何してんだよ、塔矢ぁ」
まだ眠い目をこすりながら、ヒカルはアキラを睨む。だがアキラはかまわず菊門を弄り続
けた。先ほどの名残で、そこはほどよくほぐれている。アキラは次第に自身が固くなるの
を感じた。
「ボクを忘れて眠っていた罰だ。もう一度やらせてもらうよ」
そう言うと、アキラは自分のモノをそこへあてがった。
「え? ちょっとやだ、もうやだよ! 塔矢のバカ」
ヒカルは逃げようとしたが、アキラにしっかりと腰をつかまれていたので、結局にアキラ
の好きなようにやられてしまった。


(2)


「ヒデーよ。いったい何回人をバコバコやれば気が済むんだよ。これじゃあ座ることもで
きないじゃないか」
ヒカルはお尻をさすりながらアキラを睨む。だがアキラは気にせずスーツに着替えた。
「キミも早く着替えたほうがいい。間に合わないぞ」
アキラは未だにベッドから起き上がれないヒカルを見る。
ヒカルは睨みながらも、捕らえられた小鹿のように抵抗できずに横たわっていた。
アキラはため息をつくと、ぬらしたタオルでヒカルの体を拭いた。そして情事のために脱
がせたスーツを着せる。白いワイシャツをヒカルに着せる。細身の体には大きすぎるワイ
シャツのボタンを一つ一つはめていく。ヒカルはそれを黙って見つめた。
今日は桑原の祝賀会が新宿のホテルで行われる。それに呼ばれた二人は遅刻しないよう3
時間前に新宿駅で待ち合わせた。初めは何故そんなに早くに待ち合わせる必要があるのか
と疑問に思っていたヒカルだったが、アキラが会うなり休憩に誘ってきたのでその理由が
わかった。
「はぁ〜あ、なんでオレってこういうのにすぐひっかかるのかな」
ヒカルはボソッと呟いた。
「それはキミがボクのことを好きだからじゃないか」
自信満々にアキラはそう言うと、ヒカルのネクタイを締めた。そしてキスをする。
「脱がすのもいいけど、服を着せるっていうのも結構楽しいものなんだね」
アキラはそう言って笑った。
「何言ってんだ。この変態!」
ヒカルは顔を赤らめた。


(3)


「なんかスゲ〜ホテルだな。オレ達場違いじゃねーか?」
あまりにも豪華なつくりの外装に、ヒカルは怖気づいた。だがアキラは構わず中へ入る。
名人の息子でもあるアキラは、こんな高級ホテルなど行き慣れているのだろう。ヒカルは
チェッと舌打ちすると、アキラの後をついて行った。
「確か会場は“菊の間”だったな。進藤、もっと速く歩いてくれないか。遅刻したら失礼
だろう」
アキラはそう言うとさっさと歩いていってしまった。
誰のせいだと思ってんだと、ヒカルはその後姿を睨む。ヒカルは歩くたびに激痛が走るの
で、速く歩くなど困難な状態だった。それでも何とか“菊の間”に到着する。
だが中に入った途端、ヒカルは圧倒されてしまった。いかにも偉そうな人達が、グラスを
片手に会話を楽しんでいる。そしてテーブルには見たこともないような豪華な食事が皿に
盛りつけられていた。ヒカルはそれを見て、思わず唾をのみこんだ。
「進藤、何をやっているんだ。食事よりもまず先に桑原先生に挨拶に行くのが礼儀だろう」
アキラは少々呆れ気味にため息をついた。ヒカルはわかってるよと言うと、アキラを無視
して先に桑原のところへ行った。
「おう、小僧。来たか」
ヒカルの顔がいつになく緊張してる様を見て、桑原はニヤニヤと笑った。
「桑原先生、この度はおめでとうございます」
アキラは桑原にお辞儀をした。つられてヒカルもお辞儀をする。
「いやいや、わざわざ大きな花をありがとうな」
桑原は礼を言った。ヒカルは花?と訳がわからないような感じで首をかしげる。
「入り口にあっただろう、花スタンドが。キミは手ぶらで祝賀会に来たのか?」
アキラに言われ、ヒカルは口を尖らせた。
「そんなこと、おまえ言わなかったじゃないか」
「常識だろ」
アキラはそう言うとそっぽを向いた。ヒカルは次第に苛立ち始める。
「まぁ、誕生会と同窓会を兼ねたような単なるパーティーじゃ。気にするな。それよりも
今夜はとことん付き合ってもらうからな。覚悟するんじゃぞ」
桑原の目が一瞬怪しく光った気がした。


(4)


挨拶を済ませたヒカルは、皿を持って料理を思う存分食べていた。
「進藤…」
アキラはまた呆れたように言う。
「普通こういうパーティーの席ではあまり食事をするものではないぞ。来ている招待客の
中には著名人もいる。そういう人と仲良くなれるチャンスでもあるんだ」
だがヒカルは構わず食事を続けた。アキラへの苛立ちから食べずにはいられなかったのだ。
「まぁ、いいだろう。今日はキミのように食べ続けている人がいるようだから」
アキラに言われ、ヒカルは辺りを見まわした。すると奥の席でまるで早食い競争でもして
いるかのように、倉田がガツガツ食べていた。
「食べてもいいが、きちんと挨拶にも行くんだぞ」
そう言うとアキラは挨拶にまわりに行った。
ヒカルはその姿を目で追った。普段は感じないが、こういうところに来るとアキラと自分
は違のだということがはっきりとわかる。ヒカルはもしかしたらアキラが非常識な自分を
連れて歩くのは恥ずかしいのかと思っていないか不安になった。ついさっきまでベッドで
あんなに優しく(強引な部分もあったが)してくれたのに、こんなにも冷たい態度を取ら
れると、苛立ちよりも段々悲しみが襲ってくる。ヒカルはそれをやけ食いでごまかした。
「よう、進藤。おまえも結構食ってんな〜」
一人食べ続けていたヒカルのもとに、倉田がやってきた。
「なんか文句ありますか?」
その態度に倉田は笑う。
「なにをいらついているんだ? もしかしてやけ食いか?」
倉田は愉快そうに笑った。
「どうせ塔矢アキラになにか言われたんだろう」
そう言われ、ヒカルは何故わかったのかとでも言うように倉田を見た。
倉田は通り過ぎるウエイターからビールをもらい、それを飲むと更に大笑いした。
「図星か。図星だな。やっぱりな。本当わかりやすいな、進藤は」
それに怒ったヒカルは、倉田の持っていたグラスを奪い取ると、それを一気に飲み干した。
「あぁ〜っ! 未成年なのに。バカ、進藤って本当にバカだね」
倉田は呆れてヒカルからグラスを取り上げた。


(5)


そこへアキラが嵐のように現れた。まるでヒカルをずっと監視していたかのようなタイミ
ングのよさに、倉田は呆然とする。
ヒカルは次第にトロンとした目つきになる。
アキラは無言でヒカルを抱き上げて立たせると、倉田に一礼をして会場を出ていった。
「本当、人騒がせなヤツ〜ゥ」
残された倉田はそう呟くと、何かないかとまた食べ物をあさり始めた。



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