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(1)
人前で大ゲンカするのは互いの二人だけの合図なんだよ。
“今夜これから・・ヤルぞ”“・・わかった。いつもの場所に先に行く”


(2)
学生服の二人が入れるラブホテルはない。
とある公園の男子トイレの一室が、二人にとって重要な時間を過ごす場所であった・・。


(3)
だがアキラがその場所に着いた時、ヒカルの姿はなかった。アキラが首を傾げていると、隣の個室から泣き声が聞こえて来た。
「お願いだよお・・、やめてよお・・」
それは確かにヒカルの声だった。


(4)
人気の無い公園の隅で隠れるようにひっそりと建つそのトイレに向かって、進藤ヒカルは歩いていた。まだ塔矢は来ていないようだった。
時刻は八時ちょっと過ぎ。すでに桜の季節は終わり、木々の新緑は青々として美しく、そよぐ風が肌に心地良い。あの頃から数えると、もうニヶ月が過ぎたのだろうか。まだ春の気配すら遠い、あいつと…俺の関係が変わった日から…

ヴヴヴ…
ふと我にかえると、人の気配はなかったはずのトイレの中から、微かに携帯のバイブ音が響くのが聞こえる。ヒカルは訝しりながらも、トイレへと駆け寄った。
「塔矢…?来てるのか…?」
ヒカルはトイレの中を見渡したが、そこにアキラの姿は無く、ひんやりと湿った床の上には、見紛う事無きアキラの携帯が落ちていた。


(5)
「これ…塔矢の携帯じゃねーか!」
ヒカルは再びトイレの中を見渡すがやはりアキラの姿は無く、その代わりに、サングラスに帽子、スプリングコートという奇妙な出で立ちの男が入り口を塞いでいた。



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