光明 10
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自分の本心に気付いても誤魔化しながら生きる人間の方が遥かに多いだろう。
アキラは自分の強さを よく知らないだけで一時的に迷っているだけだと
ヒカルは無意識だが その事に気付いていた。
コイツ 案外不器用なヤツなんだよな・・・自分が一度こうだと思ったら意志を曲げず
周りの事はいっさいかまわないで突っ走るし。頭固くて生真面目すぎるんだよなあ・・・とヒカルは思った。
でも そんなアキラの一面も嫌いではなく、むしろ好感が持てた。
一つや二つの欠点があったほうが かえってヒカルには親しみやすく、完璧すぎる人間は
ヒカルのもっとも苦手な人種でもある。
アキラの父である行洋が その部類に入る。
「塔矢名人には そういう事を相談しないのか? あの人なら真剣に相談にのってくれるんじゃないのか。」
プライドは高いが真面目に話せば理解を示す人である事を佐為とのネット碁対局の件で
ヒカルは知っている。
「父には自分の事で余計な心配をかけたくない。父は毎日 碁と向き合い神の一手を模索している。
父の碁の追求を妨げる真似だけはしたくない。」とアキラは顔を下に向いたまま言った。
その言葉でアキラが どれだけ行洋を尊敬しているかがヒカルには理解できた。
そして偉大な父を持つ事に対してアキラなりの苦労を垣間見た気がした。
心の底から尊敬する父親ではなく自分に悩みを打ち明けてくれた事がヒカルには嬉しく感じた。
「進藤すまなかった 言い過ぎた。」とアキラはバツが悪そうに謝った。
「・・・塔矢、悩んだって解決する問題じゃないんだしさ 悩むより打てよ碁を。
打つしか道は開かねえよ。」
苦悩するアキラを前にして 今のヒカルに言えるのはこれが精一杯だった。
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