戻り花火 10
(10)
「ふーん・・・オレは別に構わないぜ。そうだな、・・・オレも社とは久しぶりに打ちてェし、・・・」
「なら、後で日程を決めよう。彼のほうは、こちらの都合に合わせて仕事の調整をしてくれると
言っていたから」
「んー・・・」
返事とも思考中ともつかないような声を返しながら、ヒカルは黒石を持った手を迷わせた。
――社が来る。また、自分とアキラと打つために。
嫌なわけではない。
社とまた打てるのは楽しみだったし、北斗杯やその後の交流を通して知った社の人となりにも
一つも悪く思える所はなかった。
それなのに妙な胸騒ぎがして収まらない。
ヒカルとの会話の中で禁忌のように互いの名前を避けていたアキラと社。
その二人がいつの間に連絡を取り合い、再会の段取りまで行っていたというのか。
自分の知らない所で二人はどんな会話を交わしていたのか。
北斗杯の後もずっと二人が連絡を取っていたとするなら、何故それは自分に隠されていたのか。
黒石をまた一つ盤上に置いてから、ヒカルは脇に置いてあったお茶を喉も渇いていないのに
一口飲んだ。
つっかえたようなゴクリという音がやけに大きく盤の上に響く。
予想していた手だったらしく、ヒカルが湯呑みを元の場所に置き終わらないうちに
アキラはすかさずパチリと別の場所に攻めてきた。
「で、こっちにいる間社にはまたうちに泊まってもらうことになった」
「・・・ふーん。いいんじゃねェ?・・・オマエんとこ今一人だし」
口に出してから、言葉の意味が胸を焼いた。
アキラの両親はずっと外国を回っており、家を空けている。アキラは今あの家に一人なのだ。
そこに社が泊まり、アキラと二人きりで過ごすというのだろうか。
盤上の石の並びがゆらりと歪んで、また無秩序なドット柄に見えてくる。
考えようとしても拡散してしまう。
普段なら、何があってもこんなに盤面に集中出来なくなることなどないのに。
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