無題 第2部 10


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そんなアキラの混乱をよそに、芦原は聞いてくる。
「じゃあ、アキラはソイツの事をどう思ってるんだ?嫌いかい?」
「嫌いじゃ、なかった。…でも、そんな事、考えた事も無かった。」
「じゃあ、その子にもそう言えばいい。オマエの素直な気持ちをさ。それから先は、まだどうなるかは
わからない。でも"わからない"って気持ちだけでも答えてあげなくちゃ。」
そんな風に返されて、アキラは小さく苦笑した。
―"その子"って、なんだろう?同じ学校の女の子とでも思ったのかな。それなら、そんなに悩んだり
しない。それに言われただけなんだったら、やっぱりこんなに考えたりはしない。
だが、芦原はアキラが小さく笑ったのを、納得したのだと誤解したようだった。
アキラの頭をぽんと叩いて、笑ってこう言った。
「ま、あまり深く考えるなよ。考えたってどうにもならないんだ、こういう事は。
アキラの気持ちに素直になるのが一番だよ。」

多分、思いっきり誤解したであろう芦原が、何故か心地良かった。
この誤解を解く必要なんかない。そうすれば、この人は変わらずにいてくれるだろう。
この人の鷹揚さや、幾分とぼけたのんきさが好きだ、とアキラは思った。
今日、芦原が来てくれたのは本当にありがたかった。他の人では、こんなにリラックスした気分に
はなれなかっただろう。
「大丈夫だよ、もう、きっと。芦原さんのおかげだよ。今日は色々とありがとう。」
にっこり笑って、アキラは玄関先で芦原を見送った。



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