少年王アキラ 10
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「アキラ王、これをお忘れでは?」
高ぶる気持ちを抑えきれず頬を紅潮させるアキラ王の前に、白衣姿の
オガタンが現れ、王の肩にベルベットのマントをかけた。
「おお、そうであった!さすがはオガタン。抜かりがないな」
「この勝負マントで万馬券を手にお入れください、我が王よ」
さりげなくアキラ王の前に跪くオガタンに、アキラ王は得心して頷くと、
マントの端を指先で摘んだ。
ベルベットのマントは極上の滑らかさを有するシルク素材のもので、
深い紫の地に薄紫のアーガイル柄が織り込まれている。
特に王にのみ着用を許されたこの高貴なマントを羽織ることで、アキラ王の
万馬券的中率は55倍(当社比)に跳ね上がるのだった。
その魅惑の感触に「ほうっ……」と官能的な吐息を漏らすと、アキラ王は
颯爽とマントを翻した。
「オガタンよ、ボクは万馬券とレッド、双方とも手中に収めることができる
と思うか?」
「我が至高の王以外の一体誰が、そのような偉業を成し得ましょう?」
そう言って跪きながら深く頭を垂れるオガタンの前を、アキラ王は軽やかな
足取りで通り過ぎる。
「さあ参るぞ!馬はどうした?」
「只今連れて参りましょう。鞍の色はヴィンテージレッドで宜しいですかな?」
「完璧だ。ハハハハハ!よし、皆もついて参れ!!」
すっかり舞い上がっているアキラ王は、高らかに笑うと、側に控える
座間が恭しく差し出した白い手袋をはめ、鞭を手に取った。
手にした鞭を撓らせ、ぴしぴしと鋭く空を打つアキラ王は、どこか不敵な
笑みを浮かべている。
「…………」
背筋に冷たい物が流れるのを感じた座間とオガタンは、恐怖に引きつった
表情で、互いに顔を見合わせるのだった。
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