Shangri-La 10
(10)
「あれ?珍しいですね。」
煙草に火を点けようとした緒方が胸元から取りだしたのは
ライターではなく、シンプルなスチールのマッチケースだった。
マッチをしゅっと擦る動作もあながち悪くないけど
ケースの無機質さとその趣とは噛み合っていないように思う。
「どんな方から頂いたんですか?」
アキラは、自分も煙草に火をもらいながら聞いてみた。
きっと、おねーさん達の中の誰かから貰ったんだろうと推測するが
おねーさん達の事だけは、いつ聞いても返事がない。
これで、今しばらくは緒方さんの口を封じられたかな…。
アキラは深く息を吐いて、目の前の暗い海、寄せる波の飛沫と
つかの間広がる煙を見ていた。
最近の緒方さんは、どうしてもボクを構いたいみたいだし
また進藤のことでいじられるのかな。うんざりだ。
それにしても、進藤があんなヤツだと思わなかった。
真っ直ぐで素直で愛すべきヤツだったのに…
アキラは煙草を近くの灰皿にねじ込んだ。
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