白と黒の宴2 10
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「失敗したかな。そうゆうことならやっぱガツーンと高級ステーキとかにすべきやったか…!?」
社が真剣に口に手を当てて考え込むポーズを取る。アキラはますます社という人物が判らなくなって来ていた。
「悪かったねえ、うちのは高級じゃなくて。」
手が空いたのか、いつのまにか料理長がそばに来ていて社の頭を軽く小突いた。
「ウソウソ。ここのピザとパスタは日本一やで、マスター。」
そう言って社は料理長に屈託のない笑顔を見せる。あのヒカルとの対局の時の厳しい形相の社とは
全くの別人のようであった。棋士とは皆そういうものではあるが。
「君も、碁を打つのかい?プロ棋士の人なのかい?」
「え、は、はい。」
料理長からふいに声をかけられ、アキラは慌てた。
「すまないね。私は囲碁のことは全くわからないもので。清春君、今日ここへ来たということは、
前に言っていた大きな大会の選手にとうとう決まったということかな。」
社は面目なさそうに頭を掻いた。
「いや、実はまだ…。明日もう一局打たなあかんのや。それで決まる。」
「そうかい、がんばってくれよ。今日は僕のおごりだ。」
「それはあかんて。」
社は子供のように唇をとがらした。
「今日はオレがこいつに飯をおごるって事でここに連れて来たんや。」
そう言って社はアキラを親指で差した。料理長は「ふうん」ともう一度アキラを見つめる。
「よほど大事な友だちなんだね。…清春君がここに一緒に来るのはいつも囲碁の世界とは
関係ない子ばかりだったからね。」
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