裏階段 三谷編 10
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「…消えろ」
白い影のように別の少年は無表情に揺らめき、こちらを冷たい目で見つめている。
今体を繋げているのがその幻の相手のような錯角だった。
こうして男の体の下に何度も組みしかれていたその少年は
自分が成長した時に自分に与えられた行為を与える側の人間になるとは、
思っても見なかっただろう。
髪や目の色を好きなように変える時代ではまだなかった。
家族からも、家族でないものからもその少年は排斥されていた。
色素が抜けたような白い肌と彫の深い顔だちと、若干長い手足のせいもあった。
父親や父方の血筋にないものとして、父と父方の親族から特に強く厭まれた。
母親は何も言わなかった。家族でありながら家族ではない、物心ついた時から曖昧な
境界線の中で囲碁に惹かれていったのは、自分のテリトリーを明確に主張できた
遊びだったからかもしれない。
「セイジくんは筋が良い。」
父親と自分の確執に遠慮して遠巻きに何かをいうだけの親族の中で、
プロ棋士という自ら特殊な世界に居たその伯父だけはその少年に優しかった。
わずかな機会の中で少年に囲碁を教えた。
厄介払いをするかのように父親はその伯父に少年を預けた。
母親が次に生んだ赤ん坊は真っ黒な髪と瞳を持っていた事に父親は満足していた。
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