浴衣 10
(10)
「じゃあ、8時までに戻りますから、お留守番していてね」
母はそう言い置いて、父と連れ立ち出かけていった。
頼まれていた朝顔を忘れたことを告げると、母は「困った人たちね」と言いつつも、どこか嬉しげに父に縁日に行きたいんですけどと、お伺いを立てていた。
両親は、僕の目から見ても仲がいいと思う。
二人が角を曲がり視界から消えると、僕は静かに玄関の戸を閉ざし、鍵をかけた。
「髪を洗いたい」
僕はそう言うと、進藤を見つめた。それだけで進藤は僕のいとを察してくれたのだろう。
小さく頷いた。
人のいない家の中は、ひっそりと静まりかえっていた。
僕は進藤を風呂場へと案内した。
ドアを開くためにノブを握った手が、小さく震えていた。
内戸が開けっ放しだったから、脱衣所のところまで湯気で真っ白になっていた。
進藤が、裾の濡れたアロハを落しTシャツを脱いだ。
「進藤……」
いきなり、目の前に現れる進藤の背中。華奢なようで、しっかりと筋肉のついたきれいな背中に、そっと唇を寄せていた。
すると、進藤が振り返った。
僕の悪戯に振り返った進藤が、あの熱を帯びた瞳で僕の瞳を覗き込む。
「やっと二人きりになれた」
自分自身望んだ事なのに、改めてそう言われると、僕はかなり恥ずかしくなって、進藤の視線を避けていた。すると、ギュッと裸の胸に抱きしめられてしまった。
「塔矢……、そういう可愛い仕草を、他人に見せんなよ」
「可愛い?」
「おまえのこと狙ってる奴って、結構多いんだよ」
「なんだよ、それ。進藤の考え過ぎ……」
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