アキラとヒカル−湯煙旅情編− 10
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「まさか、男だなんて思わなかったからな。」
今思えばアキラはスカートやワンピーズを履いていたわけではなかったし、アキラと言う名前も男寄りの名前だった・・・それに何よりアキラは自分をボク、と言っていたのだが、加賀の中ではアキラは女の子としてインプットされてしまっていた。
実際、アキラは、加賀の周りにいたどの女の子よりも可愛かった。
当時から腕っ節が強く男気もあり、近所のガキ大将だった加賀は、出逢ったその日から、一から十までアキラの世話を焼いた。子供の頃の年齢差というのはかなり大きい。2歳年下のアキラは動きもとろくて、とても加賀達には付いてゆけない。そんなアキラを加賀は助け、守った。
「てっちゃん、言ってみ。」アキラに合わせて身を屈め加賀が繰り返す。
「てっつちゃ?てっちゃん。」
「そう。」
「でも、加賀くんでしょ?なんでボクてっちゃんて呼ぶの?」アキラは不思議そうに聞いた。
「いいんだよ、おまえだけはいいんだ。」当時、加賀は家来達には加賀様と呼ばせていた。
アキラにてっちゃんと呼ばせるのは、その当時の加賀のロマンティシズムだったのだ。
「クーッ、今考えると穴から出て来れねえよな。」加賀は湯の中に、すっぽり頭を沈めた。
湯から再び這い出て、空を見上げると、遠方に下弦の月が笑っていた。
「綺麗ですね。」見ると、いつの間にかアキラが隣に配していた。
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