平安幻想秘聞録・第四章 10


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 もちろん、ヒカルに恋の歌など作れるわけもない。それ以前に返す気
もさらさらなかった。
 頼みの綱は明だったが、彼が屋敷に来るのは稀だし、たいてい佐為が
同席しているので、結局は文の内容が佐為に知れてしまい、あまり意味
がなかった。
「お返事は?」
「してないよ」
「それは賢明ね。うっかり恋文に返事を書こうものなら、色よい返事を
いただけたと、東宮さまがお喜びになるだけだわ」
 この時代はただの紙ですらかなり高価だ。東宮のことだから、高級な
和紙に香を炊き込め、文を結ぶ枝や紐にさえあれこれと工夫を凝らして
いることごろう。普通の女人だったら高貴なお方からそんな文をいただ
いたら天まで舞い上がることだろう。そういう意味では、ヒカルの反応
は新鮮なのかも知れない。
「何にせよ、東宮さまが光を諦めて下さるといいのですが」
「同感ですわ、佐為さま。私もお力添えを致します」
「協力していただけるのですか?」
「もちろんですわ、佐為さま」
 このままヒカルが東宮のお手つきになりでもしたら、本物の近衛光が
戻って来たときに、とんでもない騒動になるだろう。光が今のヒカルの
ように見目麗しく成長していなかったら、それだけでも問題であるし。
逆に成長していたら、それはそれでゆゆしいことだ。
 さすがにそれをそのまま口にしたりはしないが。



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